1年間に数多くのベンチャー企業が誕生しているが、その多くが名もなき中小企業のままで終わってしまう。その原因はどこにあるのだろうか。ひょっとしたらワンマン社長のそばにいる“ポチ”が、吠えているからかもしれない。 [吉田典史,Business Media 誠]
だから、皆が怖がり、報告や連絡をしない。そして自分の仕事を抱え込む。社長はそれに怒り、またかき回し、放り出す。この悪循環なのだ。こうした状況を踏まえ、コンサルタントが試みたのが「価値観を共有し合うミューティング」だった。
これは、社員らが社長の前で不満などを述べ合う会合である。互いに忌憚(きたん)のない意見を言い合うことで、不信感を取り除くことが狙いだ。例えば「会社のココが問題である」とか「報告をしなかったのは、こういった理由からだ」と辛辣(しんらつ)な内容になる可能性が高い。
コンサルタントがこの手法を提案しても、クライアント企業によっては拒むことがあるようだ。その理由は、社長が吊るし上げられることを警戒するからだ。自分が組織の中心にいないと、不安を感じるタイプが多いのだという。このベンチャー企業の社長も当初はためらっていたが、なんとか受け入れた。
やらせのミューティング
「価値観を共有し合うミューティング」を行ったものの、さっそく“やらせ”が起きた。参加したのは、正社員10人前後、非正社員のリーダー格6人ほど。コンサルタントの司会で進むのだが、これらの中に社長の言いなりになる“ポチ”が3人いた。話の流れが会社の批判になると、3人のうち、誰かが言い始める。
「それは、〇〇さんにも問題がある」「〇〇さんがこうしておけば、そのようにはならなかった」――。
〇〇さんとは、会社のことを、つまり、社長のマネジメントを批判する社員を意味する。社長が形勢不利になると、目で合図をする。すると、ポチたちは不満分子たちの発言を封じ込める。
コンサルタントにこの話を聞くと、私は状況が目に浮かんできた。自分も会社員のころ、上司の飼い犬、つまりはポチにならざるを得ないときが数多くあったからだ。
このベンチャー企業は今も売り上げは4億円前後で、「10億円の壁」を突破できていない。役員を始め、社員らは次々に辞めていく。また3人のポチのうち、2人が退職したという。
ポチたちへのアドバイス
私がポチたちを観察すると、得てしてそれなりに仕事ができるタイプが多い。そして職場の空気を察知し、周囲と良好な関係を作ることができる。だからこそ、社長は自分の子分として使おうとするのではないかと思う。トラブルメーカーでひんしゅくを買うことが多い社員には、目を向けないだろう。
残念なことに、かつての私もそうなのだが、ポチは真面目な性格で不満を抱えながらも、社長の期待に応える働きをする。これが一段と、彼らをつけあがらせるのだ。
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