尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件、そしてロシアのメドベージェフ大統領の国後島訪問。日本は近隣諸国からの“圧力”を受け続けているが、なぜこうした問題が次々に起こるのだろうか。 [藤田正美,Business Media 誠]
鳩山首相に期待をかけた沖縄県民がこれを受け入れるはずはない。県内移設容認派だった仲井間知事も、「もはや県内は無理」と言わざるをえず、辺野古沖移設は宙に浮いたままだ。鳩山首相の問題はこれだけではない。従属的ではない「対等な日米関係」にすると主張し、さらには「東アジア共同体」をぶち上げた。聞きようによっては米国排除論にも聞こえる不用意なこうした発言が、米国の神経を逆なでしたのは想像に難くない。
さらに困ったことに、中ロがこの間隙を突いてくることを民主党政権は考えていなかったように見えることだ。漁船衝突事件で中国がどんどんハードルを上げていったとき、日本側はパニックになっていたかのようである。フジタの社員が拘束されると慌てて船長を処分保留のまま釈放してしまった。そして官邸はその決定に関与していないと言ってしまった。国内からの反発を恐れたからだろうが、外から見れば「下手の言い訳」にしか聞こえない。外交能力がないことを自ら白状したようなものである。
民主党政権というリスク
政治主導を唱える民主党だが、外交に関して政治家だけで取り仕切れるとは到底思えない。外交とは過去の経緯の上に成り立っている。言葉を換えれば、国と国との友好関係や敵対関係もそれなりの理由が存在するということだ。そして過去の経緯を承知しているのは外務省という役所なのである。もし外務官僚が考える政策のオプションが気に入らないとしても、それを変えた場合にどういうリスクが存在するかぐらいは考えておかなければなるまい。そしてそのリスクを引き受けることが政治主導なのだと思う。
その意味ではTPP参加問題は民主党政権にとって、「最後の追試」なのかもしれない。もしこのテストで合格点を取れなかったら、これ以上、民主党に政権を任せておくのは日本にとってリスクが大きすぎる。しかしハードルは高い。関税による保護を外して国内農業を守るにはどうしたらいいのか。国内の規制撤廃を進めるのは民主党の主張と相反しないのか(例えば郵政民営化の見直しとTPP参加は矛盾すると思う)。
残念ながら、民主党よりもはるかに政権の座にふさわしい政党があるわけではない。しかし、消去法で民主党政権を選択させ続けられるのでは、有権者はいつまでも浮かばれない。
著者プロフィール:藤田正美氏
「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年~2000年に同誌編集長、2001年~2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
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