創造する心~ものをみるために私は目を閉じるのです

2010.11.11

仕事術

創造する心~ものをみるために私は目を閉じるのです

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

「真」を求める創造、「美」を求める創造、「利」を求める創造、「理」を求める創造―――私たちはさまざまな次元で創造を行うが、昨今のビジネス現場では「うわべの理×利得」次元での創造に偏ってはいないか。

 ・「現代人には、鎌倉時代の何処かのなま女房ほどにも、無常という事がわかっていない。常なるものを見失ったからである」。

 ・「古代人の耳目は吾々に較べれば恐らく比較にならぬ位鋭敏なものであった。吾々はただ、古代人の思いも及ばぬ複雑な刺戟を受けて神経の分裂と錯雑とを持っているに過ぎない」。

 ・「能率的に考える事が、合理的に考える事だと思い違いをしているように思われるからだ。当人は考えている積りだが、実は考える手間を省いている。(中略)考えれば考えるほどわからなくなるというのも、物を合理的に究めようとする人には、極めて正常な事である。だが、これは能率的に考えている人には異常な事だろう」。

 私たちは知識や情報を駆使することで理知的に賢くなっている、そう思いがちだ。しかし、小林はむしろ現代人の退化を喝破する。その要因を心理学者の河合隼雄は次のように一言で表す。
 「現代人は『信ずる』ことよりも、『知る』ことに重きをおこうとしている」―――。(『生きるとは自分の物語をつくること』より)
 現代人は確かにさまざまに創造はしているけれども、ほんとうに深く大きな創造をしているのか。そして何よりも、創造のほんとうの喜びを得ているのか……。
 霊感や信ずることを排除してしまい、人間が古来から持ってきた“何か大事な創造の心”を失いかけている私たちは、次の言葉を再度噛みしめたい。

 ・「Wonder is the basis of worship.(不思議なものへの驚きは崇敬の地盤となる)」。
―――トーマス・カーライル(英国の歴史家)

 ・「ものをみるために、私は目を閉じるのです」。
―――ポール・ゴーギャン(フランスの画家)

 ・「静に見れば、もの皆自得すと云へり」。 ―――松尾芭蕉
 日本画家の東山魁夷はこの芭蕉の言葉を引いて、自己の利害得失を離れて虚心にものを見れば、その時はじめて、天地の間に存在する万物がそれぞれの生命をもって十全とした姿を現す。そうした対象と自己とが深い所でつながったときの喜びを芭蕉は記したのではないか、そう『風景との対話』の中で書いている。

 ビジネスは生き残りをかけた戦争なんだから、そこに詩人の心を持ち込むのはお門違いと反論があるかもしれない。そのとき私は言いたい―――目の前の仕事に詩的創造を加える人は、その仕事をほんとうに楽しめる人だ。そしてまた、詩心をもった人こそがビジネスをやることで、経済は地球的規模で変わっていく。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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