創造する心~ものをみるために私は目を閉じるのです

2010.11.11

仕事術

創造する心~ものをみるために私は目を閉じるのです

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

「真」を求める創造、「美」を求める創造、「利」を求める創造、「理」を求める創造―――私たちはさまざまな次元で創造を行うが、昨今のビジネス現場では「うわべの理×利得」次元での創造に偏ってはいないか。

 ……このように創造と言ってもさまざまに広がりがあり、私たちはその広がりの中のさまざまな地点で創造を行っている。で、先ほど、私自身の仕事上の創造を振り返り、以前の創造といまの創造はどこか別物になったような気がする、書いた。その“別ものになった”をよくよく考えていくと、実はこの図でいう創造の地点が変わったからではないか、ということに行き着いた。
 つまり、以前の仕事では自分の創造(あるいは、創造する心)が主に、利×理を求める「戦略」象限でなされていたのに対し、現在の仕事では、真×美を求める「芸術」象限、より正確に言うと、「芸術」象限の中でも真×理を求める「研究」象限との境に近いところ、でなされるようになった。私は日々、ビジネスを真剣にやってはいるものの、いまの創造は、競争戦略のための創造というより、詩作に近い創造なのだ。だから詩人の言葉に響くのだと思う。

◆「うわべの理×利得」の創造に偏っていないか
 もとより創造は人間に備わった素晴らしい能力である。図の4象限のうちのどんな位置で行われる創造であっても、創造は価値あるものだし、創造はやっている本人に面白みも、充実感も与えてくれる。
 しかし、私が感じるのは、昨今の企業現場での創造が、あまりに経済的な「利」にとらわれ、同時に、あまりに「理」がうわべだけの知識使いになっていないか、そしてそのために創造が何かギリギリと尖り、ペラペラと薄くなっていないか―――そんな点だ。
 マックス・ヴェーバーは『職業としての学問』でこう語る。「情熱はいわゆる『霊感』を生み出す地盤であり、そして『霊感』は学者にとって決定的なものである。ところが、近ごろの若い人たちは、学問がまるで実験室か統計作成室で取り扱う計算問題になってしまったかのうように考える。ちょうど『工場で』なにかを製造するときのように、学問というものは、もはや『全心』を傾ける必要はなく、たんに機械的に頭をはたらかすだけでやっていけるものになってしまった」。
 ……この中の「学問」という単語を「仕事」に置き換えてもまったく有効である。言うまでもなく、ここでヴェーバーが使う「霊感」とは、単なるひらめきよりもずっと深い意味を込めている。ましてやオカルト的な怪しげなものを言っているのでもない。霊感とは、何か大いなるものとつながっている智慧の一種だ。

 企業の現場では、ますます大量のデータを蓄積し、情報分析の手法を編み出し、こぞってロジカルシンキングを重視し、理知的に創造をさせようとする。そしてその創造は競争に勝ち残る、利益を獲得するという目的に向けられている。創造を「理×利」の方向に押し進めれば押し進めるほど、私たちは霊感(語感が重ければ“インスピレーション”と言ってもいい)による創造からどんどん遠ざかってしまう。
 私はここで理知的に利益を求める創造が悪いと言っているのではない。「理×利」の創造は、果たして霊感から遠ざかることを補うに余りある創造を私たちにもたらしているのだろうか?―――その点を見つめたいのだ。
 評論家の小林秀雄は、現代人の感受性・思考についてさまざまに指摘している(以下引用『人生の鍛錬』より)。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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