ルールでがんじがらめにすることだけが、コンプライアンスの実践ではありません。
不正は、「動機」「機会」「正当化」の3つが揃ったときに起こると言われます。いわゆる不正のトライアングル。普通のやり方や自分達の力量では到底出来ないような難しい問題や高い目標が課せられた状態に置かれると、不正をはたらく動機が生まれます。次に、誰にも見られない場があったり、チェックされない、バレないような状況があったりすると、その不正な行いを実行することができる機会が生まれます。最後に、不正だと分っていても「他にもやっている人がいるはずだ」「昔から、やられてきたことだ」「これ以外に方法はない」「これくらい大したことではない」といった理由をつけ、不正な行いの実行を正当化して、初めて不正が起こる・・・というわけです。
例えば、『白濁していた温泉のお湯の色がだんだんと透明になってきた』という状況があったとします。これをまた、白く濁ったお湯に戻すのは相当無理だと考えますから、「どんな方法を使ってでも(入浴剤を使ってでも)お湯を白くしなければならない」、という動機が生まれます。次に、誰にも見られることなく入浴剤を入れる時間があり、それをチェックされることもないという機会があり、更に、「お客様は白濁していることで満足するのだ」「他の旅館だって、少しくらい入浴剤を使っているに違いない」「こうでもしなければ、お客様に来てもらえなくなる(のだから仕方ない)」といった正当化が行なわれて不正が現実に実行されることになります。
このように3つが揃ったときに不正が行なわれるということは、言い換えると、不正を防ぐにはどれか一つを消せば良いということでもありますので、コンプライアンスに関する講座において私が「それでは3つのうち、どれに着目しますか?」と問いかけますと、ほとんどの人は「機会」と回答されます。不正をはたらく機会を与えないこと、管理の強化こそが重要だ。そのためには、業務を進める手順を細かにルール化し、これを監視・チェックする体制を作り、報告の義務付けや監査の実施といった仕組みにせざるを得ないという発想です。
これももちろん一つのアプローチではありますが、現場の自由や付加価値時間を奪ってしまう、何か起こるたびにルールや仕組みが追加されていく、しまいにはルール通りにやることを目的にした仕事ぶりが横行する、といった弊害もよくある話で、このような管理・マネジメントに疲れきっている現場の皆さんも多いことだと思います。実際にコンプライアンスが組織のテーマとなると、「機会」に視点が集中し、ルールとチェックに終始しまうような会社が非常に多く、それが収益性の向上や組織の活性化に逆行しているのは分っているけれども、不正を防ぐためには仕方がない・・・と諦めているというのが大方の今の状況と言っていいでしょう。
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コンプライアンス
2011.11.29
2011.10.28
2011.04.25
2010.08.26
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。