ある編集者によると「ビジネス書の9割はゴーストライターが書いている」という。これまで彼らの原稿料や出版界の特殊な事情などに触れてきたが、今回は現役編集者からのタレコミをもとに、出版界の闇に迫った。 [吉田典史,Business Media 誠]
ゴーストライターについて書いたところ、編集者や著者、ライターから“タレコミ”を受けることが多くなった。例えば「あの編集者は、印税の分配でごまかした」「女性ライターが仕事を放棄した挙げ句、内容証明を送りつけた」などである。この10日間ほどで20件近くになった。
これらをうのみにすることはできないので、本人と会うことにした。今回の時事日想は、その中で特に考え込んでしまったものを紹介する。
エッセイにまでゴーストライターが進出
1人目は、主要出版社で文芸雑誌の編集をしている30代の女性。彼女が携わっている雑誌には、作家の「エッセイ」がある。彼女によると、そのうちの1つはゴーストライターが書いているという。作家の秘書とのメールのやりとり、違う編集者の証言などをもとに検証していくと、タレコミは信ぴょう性が高いように私は感じた。
女性編集者は、告発した理由を説明する。
「文芸誌でありながら、こういうことを編集部として認めていることが許せないし、理解できない。自分の良心もとがめる。上司(編集長)に言っても、相手にされない。自分なりに考えるものがあり、問題提起した」
私も会社員のころ、これに近い思いに駆られた。雑誌の編集部にいたとき、「巻頭エッセイ」を担当した。いちばん初めのページであり、その雑誌の「顔」とも言える。私は著名な漫画家に「書いていただけませんか」と依頼したところ、本人はこう言った。
「ほかでも(他の出版社や新聞社のこと)書いていない。私が話をすると、ライターの人がまとめてくれる。仕上がりの記事は自分が書いたみたいになるから、いいよね。あんな具合に(あなたの会社も)してくれない……?」
私は、口ごもった。ゴーストライターを起用することを求められるとは、考えていなかったからだ。そばにいた上司が「電話を切れ」とささやく。そして「いまはゴーストに書かせる連中が増えている。依頼するときには、そのあたりに気をつけろ」という。そこでは編集者がゴーストライターになり、作家の話したことをあたかも本人が書いたかのようにまとめていた。
私は「口述」、つまり、書き手が書こうとすることをまず話してみて、それをあとから文章にまとめることを否定はしない。著名な作家の間では、少なくとも大正時代のころから行われている。
問題は、そのプロセスだ。今は責任の所在があいまいになっている。言い方を変えれば、「著者主導」ではなく、「編集者やゴーストライター主導」と思える。ビジネス書を担当する15人ほどの編集者たちに、このあたりのことを確認した。すると「自分が話したことをまとめてくれ」と依頼してくる著者の中には、“丸投げ”をしてくるケースが目立つという。
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