改革は地方から。ここ数年目立つのが、元気で、はっきりとものを言う知事たちだ。言行一致で改革を進めるその活躍ぶりは、日本の将来に明るさを感じさせてくれる。地方自治の要、都道府県政を指揮する知事は、企業にたとえるなら経営者である。さまざまな抵抗を打ち砕きながら、改革を遂行する考え方、行動力はマネジメントの良き手本となるだろう。知事の改革を紹介するシリーズ、今回は、佐賀で改革を断行する古川知事である。
第2回「事件はいつも、現場で起こっている」
■こうして国宝は生まれた
「実は国宝を作ったことがあるんです。過去の話ですが」
もちろん国宝は、作ろうと思って作れるものではない。しかし、実際には自治省キャリア時代の古川氏の判断、行動があったからこそ生まれた国宝がある。その名を赤韋威鎧(あかがわおどしよろい)という。
「岡山県で財政課長を務めていたときの話です。教育委員会から、この鎧を買いたいと相談を受けました。値段を聞いてびっくりですよ、何億円もするというのだから。財政窮乏時に何をいってるんだと。ただ、そんなに高いということは、もしかしたらよほど価値があるのかと考え、とりあえず調べてみました」
東京国立博物館の刀剣の担当の方に電話した古川氏が聞いた相手の第一声は「よかったあ」だったという。岡山県が買うのなら日本の宝は安泰だと。件の鎧は知る人ぞ知る銘品、少し鎧のことをかじった人間なら、誰でも知っている宝物であり、平安朝末期の鎧は、国内にはもうこれ一つしか残っていない。話を聞いて古川氏は腹をくくった。
「仮に県が買えばどうなるのかと尋ねると、即座に返ってきた答えは『間違いなく国宝になる』でした。今のところ個人の所有物だから国宝にはなっていないけれども、県が持てば必ず国宝になる。そう念を押されました」
現場にいる古川氏には、背景も含めて事情は痛いほどにわかった。とはいえ予算がない中での数億円というのは、非現実的な数字だ。
「一応、上にお伺いを立ててみると総務部長さんは『?』みたいな反応です(笑)。『キミ、まさか買うつもりじゃないでしょうね』と完全に冗談扱い。買った方がいいんじゃないでしょうかと副知事に言ったら『気でも違ったのですか』と笑われました」
現場と上層部の間にあるどうしようもない温度差を感じた古川氏は、この件については判断保留とし、知事に最終決裁を仰いだ。英断である。しかも知事に話をする前には用意周到、隠し球も用意しておいた。
「間違いなく国宝となる岡山の宝が、このままでは東京に行ってしまう。それでは『大包平』の二の舞じゃないですか。あなたが知事の時に、またもや岡山の宝を手放す失態を演じていいのですかと迫りました」
大包平とは池田藩の秘宝とも言われた名刀である。昭和30年代に池田家から岡山県に購買を持ちかけられたが、県はこれを拒否。いま、その名刀は東京国立博物館でも一、二を競う名物となっている。ストーリーテリングの妙というべきか。この説得に促された知事は購買を決意した。
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