「フリーミアム」という新たなビジネスモデルが出現した!と騒々しいが、かつてのビジネスモデルとは一体何が違うのだろうか。
また事例として紹介されているレコード産業とラジオ局の話は有名すぎる逸話だし、何十年も前のビジネスモデルを「YOU TUBE」に置き換えられても何も新しくない。コンテンツの無料化という意味では書籍が最も分かりやすいのだが、電子書籍については、ご本人が出版業界にいる人らしく、事例にも乏しく論調は弱い。
岸氏の批判の他に、マーケティングの現場にいる身として理解しにくい(教えていただきたい)部分が2点ある。ひとつは、Googleのモデルを礼賛されているが、Yahoo!!の井上社長が語るように、結果的にポータルWebサイトが収入を得るモデルは広告収入かコンテンツやサービスに課金するモデル、そしてeコマースしかない。
人を集めて広告収入を得るビジネスモデルがYahoo!他のWebビジネスを展開するサービスのそれと何が違うのか。
しかもGoogleのサービスは著作権などにおいてグレーな部分が少なくないし、サービスレベルとしての話しならわかるが、ビジネスモデルとしての新しさにおいては、これまでのポータルWebサイトと何が異なるのか、私には理解できなかった。
もう一点は、大量のフリー顧客(リアルビジネスでは見込み顧客とも言うが)をそもそも企業は望んでいないことだ。むしろ企業は精度の高い見込み顧客を獲得しようとする。
それは第一に大量の見込み(かもしれない)顧客を保有するがあまり、営業コストや管理コストが膨大になってしまうこと。
第二に、豊富な見込み顧客があると勘違いして、マーケティングの判断を見誤ってしまうこと(顧客数やアプローチ数だけでなくアンケート調査結果などにも影響を与える)だ。
私自身、経営陣への説明に窮することが少なくない。
世の中には、自動車メーカーには試乗しかしない人、サンプル品しかもらわない人、スーパーでの無料配布イベントでそれだけを持っていく人がたくさんいる。
マスで大量に集めて、そこからセグメントしていくやり方こそ前時代的だし、フリー顧客(見込み顧客)からの転換率やB2Bでの受注率を見れば明らかであり、まさにマーケティングのムダになるケースはあとを絶たない。
だからこそ企業は新規顧客に対してでも有料にしようとするし、サンプル品ですら販売する。
とどめは、巻末にご丁寧に著者自身のフリーミアムモデルとして『フリー』をベストセラーにしたと褒め称えていたが、書籍のPDFデータを無慮配布する人は昔からいたし、このモデルがフリーミアムなら、かつて無料の文庫本『ゲドを読む』を大量に配布して本体書籍がベストセラーになった『ゲド戦記』は、超フリーミアムだ。
とはいえすごいと感じるのは、クラウドにしてもフリーミアムにしても、古くはロハスもそうだが、昔からあるモデルにほんの少し概念的な付加価値をつけて、あたかも画期的なモデルとして売り出し、巨万の富を得るアメリカ人のビジネス嗅覚には恐れ入る。
私自身も含めてだが、今の日本に不足しているひとつはこういうことか。
今日もどこかでこうしたバズに弱い経営者が、「うちのフリーミアム戦略はどうなってるんだ!」などとマーケティング担当者を問い詰めているのかもしれないが、そのときは、「ようやく世間もうちの戦略に追いついてきましたか。3年前からやってますよ。」と答えておこう。
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
関連記事
2015.07.10
2015.07.24