パタゴニア社にみる「個と組織の自律性」

2010.03.03

組織・人材

パタゴニア社にみる「個と組織の自律性」

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

「ポータブルスキル」を身につけさせれば社員の自律性は高まるのか?―――答えは「否」。自律性は知識・技能習得の問題ではない。働くマインドの構え様の問題である。習慣、文化の問題である。米・パタゴニア社にひとつの範をみる。

第三は「融通をきかせること」だ。サーフィンでは「来週の土曜日の午後から」などと、前もって予定を組むことはできない。もしあなたが真剣なサーファーだったら、すぐに出かけられるように、常日頃から生活や仕事のスタイルをフレキシブルにしておかなければならない。

第四は「協調性」だ。パタゴニアには、「私がサーフィンに行っている間に取引先から電話があると思うので、受けておいてほしい」と誰かが頼むと、「ああ、いいよ。楽しんでおいで」と誰もが言える雰囲気がある。そのためには、誰がどういう仕事をやっているか、周囲の人が常に理解していなければならない。

第五の狙いは「真剣なアスリート」を多く会社に雇い入れ、彼らを引き止めることだ。なぜ、真剣なアスリートを多く雇いたいのか。それは、私たちの会社は、アウトドア製品を開発・製造し販売しているからだ。自然やアウトドアスポーツについては、誰よりも深い経験と知識を持っていなければならない。

結局、「社員をサーフィンに行かせよう」という精神は、私たちの会社の「フレックスタイム」と「ジョブシェアリング」の考え方を具現化したものにほかならない。この精神は、会社が従業員を信頼していないと成立しない。これを私なりにMBAと呼んでいる。「経営学修士」ではなく、「Management By Absence(不在による経営)」だ。いったん旅行に出ると、私は会社には一切電話しない。そもそも携帯電話もパソコンも持っていかない。もちろん、私の不在時に彼らが下した判断を後で覆すことはない。社員たちの判断を尊重したいからだ。そうすることで、彼らの自主性がさらに高まるのだ。
◇ ◇ ◇

…どうだろう、私はここに「自律的な個人と自律的な組織」のひとつの模範をみる。

読者の中には、
「これは特殊な会社の事例だ」「企業プロパガンダの施策ではないか」
「うちの事業サービスでは従業員が職場を離れることなど非現実的」
「大企業組織ではそもそも無理」などといった感想があるかもしれない。

いや、ここで着目してほしいのは、パタゴニア社の「やり方」ではなく「考え方」だ。つまり、

自律的な組織のみが自律的な個人を育むことができる。
 そして自律的な個人が、その組織をより自律的に強めていく。

自律性とは知識や技能とは別次元のものである。
 それは心の構え様であり、習慣、文化でもある。

・自律的な個人と自律的な組織の間で強力なエンジンとして回転しているのは
 経営者の思想である。

次のページ―――「しつけの目的は、自分で自分を支配する人間をつく...

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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