マリオシリーズや『Wii Fit』などで世界的な支持を獲得している任天堂の宮本茂氏。ゲームデザイナーとしての30年間の業績が評価され、第13回文化庁メディア芸術祭では功労賞が贈られた。受賞者シンポジウムでは、エンターテインメント部門主査の河津秋敏氏が聞き役となり、宮本氏が自身のゲーム設計哲学を語った。 [堀内彰宏,Business Media 誠]
宮本 これは恥ずかしいのですが、日本では「世界で知られている」と言われていて、ドイツの街頭で「知っている日本人の名前を挙げろ」とインタビューしたら名前が出てきたとかありますが、僕は海外で普通に歩けます。ゲームショウのような特殊な場面に行くと大変ですが。
逆に海外では「この人は日本ですごい有名なんだよ」と言われているのですが、日本でも普通に歩いています。「何かを作っている人が有名である」ということには勘違いがあるようで、山手線に乗っていると、すごい小説家の先生が前に座っていることもあると思うのですが、みんな気付きません。若いころはちょっと自分の作品が売れると、「自分も有名になりたい」といった欲があったような気もするのですが、今は「作ったものがすべて」となっていますね。
ゲームを作ることに関しては、日本人が作るものに対して世界的な評価はすごく高いです。そのため、「どうして日本でそういうものが作られるのか」と興味を持って分析したがる人もいるのですが、僕は日本というより、また東京とか京都とかいうこととも関係なく、「基本的に個人が作っている」ということが大事かなと思っています。
僕は別に世界を意識して作っていないんですね。「自分が面白い」というとわがままな感じになるのですが、「自分たちが素直に面白い」と思えることをコツコツやっているだけです。ただ、何十年かやってきて振り返ってみると、「東京に憧れて出て行かなくて良かったな」と何となく思いますね。「京都にいて良かったな」と。
僕は大学のころに金沢にいたので、金沢にそのままいたら「東京に出たい」とか「大阪に出たい」と思ったかもしれないですが、京都で普通に仕事をしている間に30歳、40歳になっていて、「別に京都でやっていて何も問題はなかったやん」と思うようになりました。(京都にいても)世界中で売れますから。僕が40歳のころには自分が作る作品は海外で売る数の方が圧倒的に多くなってきていたので、「別に京都でやっていてもちっとも問題なかった」と思ったのです。
そうすると、「どこで仕事をするか」ということよりは、「誰が作っているか」をはっきりさせて作ることが大事かなと思っています。日本の若い人たちにとって憧れって大事だと思うんですよ。東京に憧れたり、有名になりたいと思ったり、「世界に羽ばたきたい」という憧れがあったりしてもいいと思うのですが、自分の足元をちゃんと見て作るということが大事です。僕は奇をてらったり、世界のためにと思って作っていたりはしませんから。ちゃんとやっていれば、ちゃんと評価をしてくれる人たちが世界中にいると思うので、頑張ってほしいと思います。
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宮本茂氏の設計哲学
2010.03.08
2010.03.01