志力格差の時代〈下〉~社会的起業マインドを育め

2010.01.17

組織・人材

志力格差の時代〈下〉~社会的起業マインドを育め

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

国力の衰えは志力の衰えから始まる。志力を育むためには、「ありがとう」を言われる原体験と「社会的起業マインド」の涵養が必要である。

私たちは、特に、いったん企業に就職してしまうと、
事業の第一目的は「利益の追求」であるように頭が染まってしまう。
「利益が出なければ会社は存続できないし、自分の給料だって出ない」
「会社の事業が社会・顧客に受け入れられているかは、獲得する利益によって代弁される」
「利益の最大化を狙って各社競い合うからイノベーションが起こり、文明は発達する」
「利潤追求を排除した共産・社会主義国家の末路は誰もが知っている通りだ」
・・・こうした利益追求を肯定する思考に、誰も否定はできない。

利益は大事だが、しかし、事業の目的ではない。
ちなみに、ピーター・ドラッカーは
利益は目的ではなく、企業が存続するための条件である
「組織は存続が目的ではなく、社会に対して貢献することが目的である」という内容のことを言っている。

確かにたくさんの雇用を保持している企業は簡単につぶれてはいけない。
しかし、企業が自らの存続のために、利益を目的にすればするほど、
社員はその利益の数値目標に呪縛されて働くことになる。
すると社員の関心事は、ますます年収の「多い/少ない」に移っていく。
(これだけきついプレッシャーに耐えて目標をクリアしたんだから、
その利益の分け前を給料としてきちんともらわないとやってられない、といった心理になる)

社会をあげてこの回路を際限なく増幅させてはいけない。
そのためにも個々の働き手の中に「社会的起業マインド」を醸成する必要がある。

私が行う「社会的起業マインド」を涵養するプログラムでは、例えば
『未来を変える80人-僕らが出会った社会起業家-』
(シルヴァン・ダルニル著/マチュー・ルルー著、永田千奈訳、日経BP社)
のような本をテキストにしている。
そこには社会的起業の具体事例と、起業者の生き生きとした動機が紹介されている。

受講者たちは、
それら事例や動機を知るだけで、相当にインスパイアというかショックにを受ける。

「あ、そうか、こういうビジネス発想もありなんだ」
「自己実現欲求が社会貢献と結び付くとはこういうことか」
「公共善サービスが、公営や非営利でなくてもビジネスとして回ることが可能なんだな」
「自分の欲する生き方と仕事が重ねられるなんてウラヤマシイ!」などなど。

書籍でいえば、
『ムハマド・ユヌス自伝-貧困なき世界をめざす銀行家-』
(ムハマド・ユヌス著/アラン・ジョリ著、猪熊弘子訳、早川書房)も恰好の教材になる。

ムハマド・ユヌス氏は2006年の「ノーベル平和賞」受賞者である。
マイクロクレジットという手法でグラミン銀行を創業し、
バングラディシュの貧困層の人びとの生活を劇的に向上させた。
「ソーシャル・ビジネス」の提唱者でもある。

次のページ国力の衰えは、個々人の志力の衰えからくるからだ。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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