国力の衰えは志力の衰えから始まる。志力を育むためには、「ありがとう」を言われる原体験と「社会的起業マインド」の涵養が必要である。
伊藤忠商事の丹羽宇一郎会長は
日本に「徴農制」を施してはどうかと提起されている。
社会に出る前の若者を国費で一定期間、兵役ではなく、農業につかせるというものだ。
(大いに賛同!)
私がそれにあやかって発想するなら、「徴ボランティア制」がいいと思っている。
(国からの命令による義務役なので、もはや“ボランティア”とは言えないが)
名称はともかく、ある期間、国民のお勤めとして、社会慈善事業(国内外への派遣)に参加するのである。
国家の徴集制ではなくて、学校・大学の必須授業として組み込んでしまう手もある。
私は、以前いた会社で、就職活動前の大学生をネットワークし、
「二十歳の社会勉強」プロジェクトと称して、彼らにいろいろな社会的活動を通して
働くこととは何か? 職業選択とは何か? を考えさせた。
沖縄の離島に大学生を数十人連れて行って、小学校で出前授業をやったり、
町の商店街に出かけていって活性化策を取材したり、
豪雪地方の村に行って雪下ろしを手伝ったりした。
そこで言われた“ありがとう”は、彼らにとって何よりの報酬であっただろうし、
またそれが啓発材料となっていろいろなことを考えただろうと思う。
そして(あのプロジェクトから10年ほど経つが)今でもあのときの経験は、
参加者の一人一人に、
今の自分の仕事の在り方は現状のままでいいのだろうか、
今の自分のキャリアの流れには、志のようなもの(想いやビジョン)があるのだろうか、
今の自分の存在は、どれだけ社会の役に立っているのだろうか、
今の自分の会社のビジネスは、どれだけ社会にプラスの貢献をしているのだろうか、
などといった自問をチラチラと投げかけて続けているにちがいない。
人生の早い段階で社会貢献的な仕事をして、そこでありがとうを言われる原体験は、
個々の人の中に「志」の形成意欲の種を確実に植える。
その種が植え付けられるかどうかは、彼(女)の人生・キャリアにとって決定的な出来事だ。
* * * * *
ありがとうを言われる原経験と併行して大事なのが、
「社会的起業マインド」の醸成である。
ここでいう「社会的起業マインド」は3つの観点を含んでいる。
1)社会的:
一人間・一世界市民の立場から「共通善(common good)」を志向し
2)起業:
(広い意味で)
どんな小さな仕事・事業でも、何か自分で考えてつくり出そうとする
3)マインド:
意識・心持ち
私はみずからが行う『プロフェッショナルシップ研修』というプログラムの中で
この「社会的起業マインド」の醸成を刺激するセッションを設けている。
なぜなら、一個の自律したプロであるためには、
働く先が、企業(株式会社)であろうと、NPOであろうと、役所であろうと、
この「社会的起業マインド」は、欠くべからず素養であると思うからだ。
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【志力格差の時代】
2010.02.01
2010.01.17
2009.12.28
2009.12.08
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。