アマゾンのキンドルをはじめとして、電子書籍化の波がいよいよ日本にもやってくる。出版社はこの事態に備え、「日本電子書籍出版社協会」(仮称)を立ち上げるようだ。
デジタル端末の可能性は広がる。電子書籍を読みながら関連情報や不明な用語はその場で調べたり、リンクしたり、コンテンツ同士の結びつきを持つようになれば便利性はますます高まり、電子書籍のフィールドは一気に広まるのは間違いないだろう。
出版業界に関わるものとしての意見とはなってしまうが、書籍のデジタル化の問題は、単に印刷費用とデジタルデータの配信費用の比較ではない。書籍の作成にいたるまでのコストは、原則として完全原稿の形にするまでのコストが大きな部分を占める。デジタル化されたテキストデータは無料どころか、大部数をほこる書籍や雑誌は別として、むしろ用紙や印刷よりも、そこにいたるまでのほうがコストはかかる。
(ブックオフのビジネスモデルを許容できない理由と全く同じだ)
さらに多くのビジネス書や雑誌、トレンドを意識した書籍は、編集部門のウエートがさらに高くなる。マーケットのニーズに合わせてコンセプトを企画し、訴求方法を考え、受け入れてもらいやすい文章にしたて、書籍という商品に仕上げていく。
そうして創り上げたものに対し、原稿作成までのプロセスを無視して、デジタルデータだからという理由だけで低いコストで販売されたのでは、出版社側はたまったものではない。だからといって無条件に編集側のものかというものでもないが、出版社側の主張は十分に理解できる。
しかし、今回の協会設立にあたって、講談社の野間副社長は、「デジタル化で出版社が作品の二次利用ができる権利を、著作者とともに法的に持てるようにしたい」と語っている(同朝日新聞)そうだが、「権利を求める」のなら、今後は、電子出版においての編集技術を証明しなければならない。紙とは大きく異なる電子出版編集を追及し、出版社としての価値を生み出す以外に手はないだろう。
商品の価値がどこにあるのかの問題であって、業界の権利や保護といった話ではないからだ。出版社側は、出版物としての有用性、利便性、あくまで商品としての価値提供の有無を問題にしなければならないし、価値創造を追及しなければならない。こうした劇的な変化を目の前にした今だからこそ、これまでに築き上げてきた、独自の「編集」というノウハウ・技術を活かすべきだろう。書籍は、コンテンツの表現物としてプロフェッショナルによって造られたものであり、決してデータ加工品などではない。
同じ著者のコンテンツであっても、電子編集者と書籍編集者のスキルは異なる。それぞれの媒体を生かした競争をしていくことも考えられるし、電子コンテンツが無限に顕われてくるようになれば、そこには必ずナビゲーション機能が必要になる。現時点ではアマゾンが一歩も二歩もリードしているが、個人の嗜好性によるコンテンツナビゲーションは、リコメンド機能とはまた異なるサービスとして必要になるはずだ。
書籍は書籍で、ここでこれまでの流通のしくみや作成プロセスを見直し、電子媒体に対応できる商品・サービスである必要があるし、著作者が自由に表現し、すべての著者が平等に訴求できる仕組みも必要だろう。
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