ジャーナリスト・上杉隆氏をホストとする対談連載1回目。事件などを追い続けているノンフィクションライター・窪田順生氏を招き、メディアの現状や課題などを語り合った。 [土肥義則,Business Media 誠]
窪田 あまりにも日本は「情報操作が存在している」ことに無関心だったので、内側に入っていろいろ見てみたのですが……やはり丸裸でした(笑)。
情報管理がボロボロの官邸
上杉 現実を直視しないんですよね。危機が迫っていても、それを見ないというか、見ようとしない。ヘンな癖がついているから、「自分は大丈夫だろう」と思っているのでは。それは根拠のない、楽観主義に陥っているようなもの。
窪田 例えば船場吉兆のささやき女将※のような人が登場すると、多くの企業は「メディア対応は大事なんだ」といった認識になるんです。会見などでのイメージは大切だということは分かっているのですが、実際「何をしたらいいのか分からない」といった感じで、右往左往している人が多いですね。
※2007年10月、福岡県の百貨店の店舗で、船場吉兆が消費期限切れの菓子を販売していたことが明るみになった。そのとき記者会見した湯木佐知子社長が、隣の席にいた長男(湯木喜久郎取締役)にささやきかけていたことで、消費者などからひんしゅくを買った。
で、結局は「記者の人たちだって人間だから、腹を割って話せば分かってくれますよ」といった根拠なき性善説で、この問題を片付けようとしますね。
上杉 海外ではどの職種も当たり前のようにメディアコントロール担当のスピンドクターがいますが、日本に窪田さんのようなお仕事をしている人はいますか?
窪田 PR会社で「メディア対応をします」というところはありますが、「我々は危機管理の専門家です」といったことは聞いたことがありませんね。
土肥 そういえば上杉さんも、鳩山政権が誕生するときに「報道担当の首相秘書官か補佐官で起用する」といった報道が出ていましたが……。その話はどのようになりましたか?
上杉 そんな話もありましたね。しかし、今では記者クラブを守る鳩山政権への批判の急先鋒になってしまいました(笑)。報道担当の話はまさにスピンドクター的な役割だったと思いますね。
土肥 思います、というのは?
上杉 報道担当についての話は、間接的に聞いていましたが、鳩山由紀夫さんから直接「来てください」とは言われていません。もっとも、誘われても行きませんが……。あんな情報管理がボロボロの官邸に誰が行くか、といった感じですね。
一同笑い。
日本にスピンドクターがいない理由
上杉 例えば英国の場合、首相報道官や補佐官は議員でない人が担当しています。議員だと政権末期になれば、次の政権に乗り換えるような裏切り行為が生まれやすいから。非議員だと政治家と一緒に辞めざるを得ないので、裏切り行為が生まれにくい。しかし日本のように、首相の周囲を議員で固めて、その議員の下に報道官を置いても、スピンドクターの役割を果たすことは難しい。
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