テレ朝・角澤アナが語る、スポーツ実況の内幕~後編~

2009.08.20

ライフ・ソーシャル

テレ朝・角澤アナが語る、スポーツ実況の内幕~後編~

ITmedia ビジネスオンライン
“ニュースを考える、ビジネスモデルを知る” ITmedia 編集部

早稲田大学は7月10日、大隈小講堂で公開フォーラムを開催、テレビ朝日アナウンサーの角澤照治氏がスポーツ実況に10数年関わった経験を語った。[堀内彰宏,Business Media 誠]

 テレビ朝日では今やっていないのですが、競技場の音声だけを流す副音声が他局にあるのは知っていますし、非常に刺激になっています。アナウンサーとしてはちょっと矛盾しているのですが、「沈黙に勝るものはない」と思うこともあります。

 ドーハの悲劇があった時、テレビ東京の久保田光彦アナウンサーが実況していました。2対1で日本がリードしていて、ロスタイムにイラクに与えたコーナーキックがゴールに入ってしまって同点になったことで、日本は1994年の米国ワールドカップに行けませんでした。新人アナウンサーたちでテレビを見ていたのですが、その時に久保田さんは「さあ日本、ワールドカップまであとロスタイム1分を切りました。コーナーキック」と言った後、スポッとゴールが入ると30秒くらい黙ったのです。

 泣き崩れる柱谷哲二さん、ラモス瑠偉さんたちの映像が刻々と流されているわけです。その映像の後に静かな声で「仕方ないですね」というひと言が聞こえたのですが、あの沈黙は新人アナウンサーの僕としては衝撃でした。「雄弁に語ることがすべてじゃないんだな」ということを学んだ瞬間でした。“絶叫型 ”と言われる私が言うには矛盾しているかもしれませんが、そういう意識は持っています。

憧れすぎて似てしまう怖さ

角澤 憧れのアナウンサーは断然古舘さんなのですが、憧れ過ぎてしまうと全部真似して、だんだん似てきてしまう恐れがあります。先輩の渡辺宜嗣アナウンサーは久米さんのことが大好きで、自分でも「久米さんの真似を自分はし続けた」とおっしゃっています。真似をし続けた結果、ニュースステーションで久米さんの代理をやった時に、視聴者から「久米さんにそっくり」という感想が殺到しました。

 僕は古舘さんになれないとは思うのですが、“似てしまう怖さ”というのはあると思います。古舘さんのスタジオでの進行の間などは頭に残っているのですが、憧れすぎて似てしまう怖さというのが自分の中であって、オリジナリティで勝負しなければいけない世界だと思うので、憧れのアナウンサーと目指すアナウンサー像は違うのかなと思います。

 また、スポーツジャーナリストと言われる人には、スポーツアスリートとの向き合い方が上手な人がいっぱいいると思いますが、僕はしごく下手くそな人間で、親しいスポーツ選手はいますが「親しくなり過ぎてしまうといけないかな」と思ってしまう方です。例えばどの新聞にも出ていなかったことなのですが、この前、ある日本代表選手がひざが悪いのを隠して痛み止めを打って日本代表戦に出ていたのですが、明らかに動きが悪いのです。前日に彼は「絶好調」とコメントしていたのですが、放送席で「実は彼は今日痛み止めを打ってまでやっています」と言うのは、真実を伝えるということではありますが、僕は何か言えないんですよね。

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