サッサッとお茶漬け、コツコツ拡大:永谷園

2009.05.25

営業・マーケティング

サッサッとお茶漬け、コツコツ拡大:永谷園

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

「サッサッ」という音。茶漬け海苔を振りかける、永谷園のサウンドロゴである。その軽妙な音とは裏腹に、同社の戦略は意外とコツコツ地道な感じがする。

日経MJの記事では<同社は4月にも加ト吉と組み、永谷園の即席吸い物と加ト吉の冷凍うどんを交ぜた「釜玉うどん」をテレビCMや店頭で紹介。4月の吸い物の販売は3月に比べ3割伸びたという>と紹介されている。
同社のテレビCMは今までにも多彩なタレントを起用しているが、今回は玉木宏を投入して力を入れている。商材は「松茸の味お吸い物」。今までにもパスタや小鍋を提案している。
同製品の売上げがどのように推移しているのか、データが探せなかったのだが、筆者はお茶づけ海苔以上にご無沙汰である。単純に「器に入れてお湯を注げばカンタンにお吸い物ができます」という本来の利便性訴求だけでは売上げ拡大には限界があるのは必定。ちょっと意外で便利な使い方提案が欠かせないのだ。前出のチャーハンのもとも、「ご飯と交ぜて炒めればチャーハンのできあがり」では、消費者が「チャーハンを作ろうか」と思った時にした登場の機会はない。

「使用用途の拡大」。これは既存顧客の深掘りには欠かせない要素だ。経済学者のイゴール・アンゾフが提唱した「事業拡大のマトリックス」は既存の顧客・市場を狙うのか、新市場を開拓するのか、既存製品で勝負するのか、新商品を開発するのかという展開の掛け合わせで、事業展開を4象限で整理している。その中で、マイケル・ポーターも検証した最も手堅い展開が、既存製品で既存市場・顧客を深掘りするというパターンである。
事業の成長を望むばあい、ついつい新たな市場や顧客層に食指を伸ばしたり、新商品で勝負をかけたりしたくなる。しかし、それ以前に「既存の深掘り」をすべきなのだ。
例えば、「宅配便」。単純に荷受けをして、指定された先まで荷物を運ぶというサービスであれば、今日のような発展はしなかっただろう。指定時間にキッチリ届ける。ゴルフ場やスキー場への道具の運送を行い、復路も手間なく確約する。冷蔵や冷凍が必要な荷物を運ぶ。代金の支払いを届け時に受け付ける・・・。そんな、「運ぶ」という主たる役務提供付随したサービスで顧客ニーズを深掘りしたのだ。

サッサッという軽妙なお茶漬けのサウンドロゴの影にある、コツコツとした需要の深掘りを図る永谷園の展開から学ぶ所は大きいだろう。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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