音楽配信事業とよく似た構造を持つ市場でありながら、なかなか普及が進まない電子書籍事業。普及するためには何が大事なのか。電子書籍の妥当な価格や望ましい端末の姿、ファイル形式を検討し、電子書籍の未来を考える。 [森田徹,Business Media 誠]
しかし確認しておくと、42%という取り分は消費者への売上額に対する比率であって、出荷額に対する比率ではない。これが在庫責任が販売側ではなく出荷側にある、日本の再販制度・委託販売制度の特殊性である※。
※通常の業種では出荷段階で代金を回収できる(買い切り)。例えば、ヨドバシカメラに並んでいるiPodの在庫はヨドバシカメラ(あるいはApple Japanとヨドバシカメラを仲介する丸紅インフォテックや加賀電子)の棚卸資産であって、電機メーカー(Apple)の棚卸資産ではない。
電子書籍の想定費用構造
書籍の具体的な費用構造が見えたところで、今度は音楽事業をモデルに電子書籍の想定コストを試算してみよう。音楽配信ビジネスは端末で利益を稼いでネットワーク販売はオマケという少々説明を要するビジネスモデルだが、電子書籍ビジネスも同様の流通過程をたどると仮定して流通費用を計算する。
今や米音楽販売最大手となった「iTunes Store」では1曲ダウンロードする料金は0.99ドルだが、そのうちAppleの取り分は0.30ドルほどだ(PacificCrestのAndy Hargreaves氏試算でネットワーク費用0.05ドル、トランザクション費用0.10ドル、営業費用0.05ドル、残り0.10ドルがAppleの利益)。データ量(ネットワーク負荷)や取引量の問題があるが、やや強引に電子書籍でも“1冊”あたりの流通費用を0.30ドル(=30円)として話を進めよう。これは2007年の紙書籍平均単価1152円(出版科学研究所調べ・PDFファイル)の2.60%にあたるから、流通費用は紙書籍の33%に比べて30ポイントほど削減できることになる。
また外部委託費の項目では、レイアウト代は依然として必要だが紙代はいらなくなる。そのため、前述の経緯から売り上げの15%を占めていた費用を10ポイント削減して、5%ほどにできると仮定できる。そうすると電子書籍の想定コストは次図のようになる。
流通費用と外部委託費以外の電子書籍のコストが紙書籍と同一と高めに見積もっても、紙書籍の60%程度の販売価格で電子書籍は流通できることになる。手元にある講談社系のコミックが420円だから電子書籍だと250円ほど、角川系のライトノベルが514円だから電子書籍では300円ほど。2007 年の紙書籍平均単価は1152円だから、書店の本がすべて電子書籍になれば平均単価は691.2円ということになる。平均単価が新刊の20%ほどになる古本ほどではないが、検索の容易性や品揃えの豊富さ、配送・取り寄せ待ちのない即時性なども考え合わせれば十分魅力的な価格設定だろう。
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電子書籍はキャズムを超えられるか?――iPodに学ぶ普及への道
2009.04.09
2009.04.07