テレビがつまらなくなったもう1つの理由

2009.02.02

ライフ・ソーシャル

テレビがつまらなくなったもう1つの理由

福元 聖也

サッカー日本代表の試合がインターネットでのみ中継された出来事をきっかけに、テレビがつまらないと言われるようになったコンテンツの品質以外の理由は何か、過去からのテレビの視聴スタイルの変遷から考えてみます。

ざっとテレビが上記のような変遷を辿っていることを示したが、昨今言われているテレビがつまらないといわれる理由の1つに「番組としてのコンテンツがつまらない」というのもあろうが、「テレビを観ている時間そのものがつまらない」も挙げられないだろうか。

ゲームで例えよう。Nintendo Wiiが大ヒットしている。ヒットの要因は簡単に楽しめるソフトが充実していること、複数人数で楽しめるという点などが挙げられる。後者はまさに現在のテレビに欠けている点ではないだろうか。すなわち、ゲームを通じて互いに生まれるのと同じようなコミュニケーションがテレビを観ているシーンでは見られなくなった。

テレビを観ながら生まれる視聴者の喜怒哀楽は、番組が効果音として入れている笑い声や拍手などに誘導されて処理され、誰かと共有してコミュニケーションが生まれることは失われつつある。

そして、話は冒頭に挙げた先日のインターネット上でのサッカー日本代表の試合へ。この試みの特徴は、インターネットを通じて試合を観戦しながら、チャットで誰でもコメントをリアルタイムに投稿できたことである。試合展開のみならず解説者の実況内容へのコメントなども盛り上がったようである。一人一台やワンセグと同じように画面の前では1人であっても、画面の向こうにいる他の視聴者とはかつての街頭テレビのような関係が成り立っている。リアルタイムで番組へ喜怒哀楽をぶつけ合い共有ができていると言える。海外など遠隔地で行われるサッカー日本代表の試合を、国立競技場などでサポーターが集まって観戦するパブリックビューイングがひところ盛り上がった。まさしくこれと同じようなことがこの前のサッカー日本代表の試合で起こったのである。ただ、サポーターが喜怒哀楽を共有したのはリアルな空間でではなく、インターネットというバーチャルな空間でであり、これまでのテレビ視聴の変遷に当てはめて「バーチャル街頭テレビの時代」と称したい。

個人主義の進展が過度に強調されているが、時代が変わろうと人々は誰かと気持ちを共有することに喜びを見出しているのである。

これからの時代にテレビが経営上の苦境を乗り越えていくためにはこれまでテレビに対して視聴者は基本的に受身であるという認識を改めなければならない。デジタル放送ではリアルタイムにアンケートを行うなどの試みが行われているが、未だに大半は携帯電話などのインターフェイスを通じて情報を収集している状況にある。デジタル放送用のリモコンを用いたものであっても、予めテレビ局が設定した選択肢を視聴者が選択するという仕組みとなっている。先の試合のように視聴者が自由に意思表示することはないところに大きな違いがある。テレビが新たなステージ―インターネットがテレビに対して有している双方向性という優位性―へ進出するのであれば、視聴者の自由な意思表示を実現するためのインターフェイスの充実に取り組むべきである。メーカーなど多くを巻き込んだ壮大な取り組みであり、実現に向けての課題は相当なものであることが容易に想像できる。番組を制作・提供するテレビ局が生き残りを図ろうとするのであれば、中心に立って取り組んでみてはと思わずにはいられない。

※図入りの原稿はこちらへアクセスしてください。

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