iPhone 3Gの販売で世間を賑わせたソフトバンクであるが、今度は「実質ゼロ円」でシャープ製の携帯電話端末を売り出すという。かつて携帯電話端末は1~2万円が相場で、型落ちの機種は1円販売が珍しくなかったが、販売奨励金の廃止を伴う「新販売方式」の導入以降、大幅に価格が上昇した。その中で、「実質ゼロ円」は奇策に見えるが、実に理に叶った戦略であることがわかる。
<ソフトバンクモバイル、シャープ製携帯で異例の実質ゼロ円>
http://it.nikkei.co.jp/mobile/news/index.aspx?n=NN002Y214%2024092008
報道によれば、対象となるのは<本体カラーが豊富なシャープ製の人気携帯端末シリーズ「PANTONE(パントン)ケータイ」の新機種「830SH」>。10月4日発売だという。
カラーバリエーションで話題になった「PANTONEケータイ」はその後、CMでキャメロン・ディアスが乗ったボートが派手に浸水する映像が表わすように防水機能がついたり、液晶部分にキーのないフルスライド型にモデルチェンジしたりと様々な進化を遂げている。しかし、今回の「実質ゼロ円」となるのは<昨年2月に出した初代機種「812SH」と共通の金型で製造>というコスト低減策でゼロ円を実現している。
発表記事にあるように、<高速でネット接続できる「HSDPA」に対応><カメラによる名刺読み取り、辞書など新機能>も搭載されているが、昨今の高機能化が進む中においては地味な感は否めない。しかし、機能の多彩さよりも端末価格が安いことを優先する人も少なくないのは事実だろう。
携帯キャリアとしてのソフトバンクのポジションを考えてみよう。
PHSを除いた携帯電話の本年8月のシェアはNTT DoCoMo 52%、 au 29% 、SOFTBANK MOBILE 19% 、EMOBILE 1%という状況だ。番号ポータビリティー以降、「ドコモ一人負け」などといわれてはいるものの、ランチェスター戦略における「クープマンの目標値」で考えても、この順位は容易にはひっくりがえらない。つまり、ソフトバンクはドコモに対するチャレンジャーのポジションも獲得できていないのだ。チャレンジャーになれないのであれば、かつてのツーカーのように「フォロアー」としてひっそり生きていくのか、独自の生存領域を確保して「ニッチャー」としてのポジションを確立するのかだ。ソフトバンクは後者の戦略をとっていると思われる。
今年話題となった商品ランキングを作ればiPhone 3Gの上位ランクインは間違いないだろう。しかし、アナリストによると販売台数は20万台程度で頭打ちになっているという。
ではiPhone 3Gは失敗だったのかというと、全くそうではない。iPhone 3GはちょっとGeekな人、マニア層を狙った展開であるとすれば20万台でも、まずまずの成功であるはずだ。
そして、今回の「実質ゼロ円携帯」は機能より価格にひかれる層を狙い撃ちした展開である。つまり、ソフトバンクは携帯電話市場を巧みなセグメントの設定によって、自分たちが獲得できる層を確実に取り込んでいく戦略を展開していると解釈できるのだ。
戦略ポジションに応じた戦い方を意識することは重要だ。体力に合わない真っ向勝負は潔くはあるが、待っているのは無駄死にの末路である。今回の展開もそうした事例として解釈することができるだろう。
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2008.10.08
2008.10.27
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。