映画「幸せの1ページ」は誰のため?

2008.09.16

営業・マーケティング

映画「幸せの1ページ」は誰のため?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

マーケティングの要諦は「整合性」である。 ターゲットを明確にし、そのターゲットにいかに魅力的に訴えかけをするのか。そして、その魅力を、製品と価格、販路とプロモーションという要素を組み合わせて提供する。 重要なのは、そのバランスであり、どこか一つだけを突出させても、ましてや安易にその整合性を部分的に変更することは全体に大きな悪影響を及ぼすことになる。

「自分を変えたい」「最初の一歩を踏み出したい」と予告編でモノローグするのは、2度のアカデミー賞主演女優賞に輝くジョディー・フォスターが演じる「引きこもりのベストセラー冒険小説家」。「人生なんて、たった一行で変えられる」「最高でハッピーでチャーミングな冒険( アドベンチャー)をあなたに!」というコピーに惹かれた。
彼女は南海の孤島に父と暮らす少女から、「父が海で行方不明になった」と助けを求めるEメールに応え、「引きこもりで極度の潔癖症」という自分の殻を破る旅に出るのだ。彼女がどのような冒険の末に変身を果たすのかワクワクした。
シネコンのスクリーンの座席を占めている観客の多くは若い女性。カップルもいるが、女性同士か一人で見に来ている女性も多い。中年男性一人でビール片手に座席に座った筆者は少々居心地が悪かった。しかし、「悪と戦うタフネスな女性主人公」の役が多かったジョディー・フォスターの、珍しくもちょっと共感できる姿に期待しているのは筆者も彼女らも同じだろう。何といっても筆者のジョディー・フォスターファン歴は長いのだ。

しかし・・・。

上映が始まってすぐにいやな予感はした。
予告編を見た以外は全く予備知識なしに本編を鑑賞したのだが、原題の「NIM'S ISLAND」という文字がスクリーンに映し出された。邦題とずいぶん違う。こういう時はだいたい要注意なのだ。

・・・セミスイートな大人向けという広告が目について、珍しくチョコレートを食べてみた。すると、口の中になんとも甘い味が広がった。よく見ると子供向け商品をパッケージを入れ替えたようだ。つまり、Productをはそのままで、ターゲットとポジショニングを変更し、Promotionの力で売る作戦だったのだろう。「はじめからそう言ってくれれば、自分で食べずに娘へのプレゼントに買ったのに」とちょっと残念な思いがした。
・・・例えて言うなら、それこの映画の感想だ。

筆者はあまり「映画評」をするのは好まない。多くの人が汗水垂らして苦労をして作り上げた作品を、たかだか1800円を投資しただけで、ビールを片手に鑑賞して云々批判するのは失礼極まりない話だと思っている。しかし、今回は映画の中身ではなく、「売り方」について少々苦言を呈したい。

作品そのものは良くできた作品だといえるだろう。南海の孤島の少女「ニム(NIM)」を演じるアビゲイル・ブリスンは天真爛漫で行動的ながら、知的でちょっと多感な少女の役を見事に演じている。無人島の自然もすばらしく、また、重要な役回りを演じる動物たちも良く調教され、ユーモラスな魅力を余すところなく披露してくれる。
つまり、この映画は「幸せの1ページ」ではなく、「NIM'S ISLAND」なのだ。あくまで、少女が主役なのである。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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