コンサルタントの矜持(1) 顧客を知り尽くし、世界を読む

2025.12.16

経営・マネジメント

コンサルタントの矜持(1) 顧客を知り尽くし、世界を読む

村上 和德
ハートアンドブレイン株式会社 代表取締役社長

「顧客を知り尽くす」とは、その会社の顧客が誰なのか、扱う商材やサービスがどのような価値を提供しているのか、顧客フロントに立つ営業メンバーの力量はどれほどか、そしてその会社の戦略性についてもすべて理解しているということです。

外部環境要因の見方は、日本のビジネスパーソンの育成に大きく欠けている視点のひとつです。例えば、株式投資というとNISAの銘柄しか考えない人もいますが、ウォッチするべきは株式市場そのものです。ただし株式市場だけを見ていても不十分です。東証の株式売買代金は3〜10兆円程度であるのに対して、債券マーケットは20〜50兆円規模です。つまり、資金の大きな流れは債券サイドにあるわけです。

日本国債の10年債利回りは株価を眺めているだけではわかりません。国の金融政策や金融機関の情報、米国債の動きなどを組み合わせて見る必要があります。他にも、世界のマネーサプライの総量や構成要素など、世界各国の金融政策と併せて、さまざまな指標を注視しておく必要があります。国内の株価だけで正確な経済状況を把握することはできないのです。

外部環境要因を分析する上では、こうした経済構造やヒストリカルの知識が不足したまま報道されるニュースだけを追っていても、本質にはたどり着けません。外部環境を読み解くには、もう一段深い構造に目を向ける必要があります。一例を挙げれば、「トリフィンのジレンマ」があります。「トリフィンのジレンマ」とは、「基軸通貨の世界への流動性供給機能と基軸通貨の信認維持が両立しない」というものですが、簡単に言うと、世界経済が成長すると、世界の準備通貨ドルに対する需要が増え、ドル高になり、米国の財政収支と経常収支が継続的に赤字となり、政府債務や対外債務の増加はいずれ持続不可能になって、ドルの基軸通貨としての信認も失われていく、というのが最近の米国政府高官の解釈です。米国の巨額の貿易赤字と財政赤字の原因は、米国が基軸通貨国として世界にドルを供給しているからだ、ということです。トランプ関税の目的の一つは、米国の貿易赤字を解消し国際競争力を回復させるために、米国のドル供給機能に対する対価を世界は支払いなさい、というものなのです。このような背景を理解して初めて、ニュースの裏側にある本当の動きが見えてきます。

世界経済の海流を理解しないまま近視眼的にビジネスを組み立てると、お客様への価値提供が商品レベルに限定されてしまいます。ビジネスパートナーに頼られる存在になるためには、世界経済に対する見識と高いリテラシーが欠かせません。しかし、日本にはこうした視点をトレーニングする教育プログラムがほとんどなく、企業の常務会クラスでさえ勉強が十分に足りているとは言えないのが実情ではないでしょうか。

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村上 和德

ハートアンドブレイン株式会社 代表取締役社長

1968年、千葉県生まれ。東海大学法学部卒業。 英国国立ウェールズ大学経営大学院(日本校)MBA。 新日本証券(現みずほ証券)入社後、日本未公開企業研究所主席研究員、米国プライベート・エクイティ・ファンドのジェネラルパートナーであるウエストスフィア・パシフィック社東京事務所ジェネラルマネジャーを経て、現職。

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