サービスサイエンティストとして、サービスの本質的な理論を提唱し続ける松井さんとパナソニックで実際にCX・CSに向き合い、お客様へのサービスを提供されている今村さんをお迎えしてお話を伺っていきたいと思います。 (聞き手:猪口真)
※事前期待とは、顧客がサービスを受ける前に抱いている「こうしてほしい」「こうなるはず」といった期待のこと。この事前期待に合っているものがサービスであり、どの事前期待を的にしてサービス設計を行うか明確に定義することが重要です。
猪口 このモデル図はどのようにして作られたのでしょうか。
今村 3〜4ヵ月にわたってチームでディスカッションを重ね、松井先生にご指導いただく中で、さまざまな軸が出てきて最終的にこのかたちになりました。自分たちがこれまでやってきたこと、目指していることが、プロジェクトを通して整理できたように思います。
松井 プロジェクトがスタートして最優先で取り組んだのが、事前期待の的の見定めです。
猪口 ここにたどり着いた時点でいろいろなことが見えてきますね。
今村 できたときには「これだ」と思いました。左下に「家事を家電にお任せ」とありますが、元々家電は主婦を重労働から解放するものとして誕生したものです。ただし、そこには「主婦が家事をする」という前提があったんです。夫婦一緒に家事をするようなメディアの描写も増えていますが、まだまだ抜け切れていない。やはり主軸は主婦の重労働です。でも、今は時代が変わりました。
もうひとつ、このモデル図が生まれた背景として、幸福やくらしの豊かさの定義が変わっていることもあります。モノを充足させる時代から、心を充足させる時代になってきた。そして、個人としての満足ではなく、仲間との関係性の中で感じる心の充実がくらしの豊かさを測る指標に変わってきた。昔は「忙しさを何とかして社会進出をしたい」だったのが、今はモノが充足してきて、豊かさの定義そのものが変わってきています。そうした時代背景の中で、右上にある「カジ育」にたどり着きました。
松井 縦軸では、下の「『家事=家の仕事』の負担を減らして楽にしたい」から、上の「家事を『くらしの楽しみごと』にしたい」へと再定義しています。
猪口 この下から上への変化が難しいですよね。右の「家族と家事を分担」は、家族に「もうちょっと手伝ってよ」という話ですが、そもそもアプローチが違います。
今村 軸が上の「楽しみ」へと変わるわけです。下の「楽」はタイパやコスパで分かりやすいのですが、上の「楽しみ」は人生の本当の豊かさにつながります。やはりそこを求めていきたい。モノと心の充実がセットになって初めて、私たちのくらしに対する貢献が完成すると思っています。
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