体操女子団代表問題は第二幕へ? 噛み合わない処分擁護派、批判派の論争

2024.07.27

組織・人材

体操女子団代表問題は第二幕へ? 噛み合わない処分擁護派、批判派の論争

増沢 隆太
株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

オリンピック女子体操の代表選手が、喫煙・飲酒をしたことにより、代表を辞任になった事件。それなりに耳目を惹くスキャンダルではあるものの、この措置を巡っての論争が続いています。意見は真っ向から対立していますが、著名人の多くが処分に批判的、一般人からの意見は処分に肯定的なものが多いという、分裂が起こっています。危機対応の視点で考えてみます。

・「昭和あるある」はもはやクイズねた
「昭和では電車の(ボックス)席には灰皿が常備されていた」「飛行機の中でも喫煙席があった」というような話題がクイズねたになるくらい、現在の価値観からは考えられないくらい、タバコは社会で大きく認められていました。

さらに当時は「運動中は水飲み禁止」「うさぎ飛びで足腰を鍛錬」「教師の暴力は愛のムチ」といった行為は、広く受け入れられていた時代でした。

これってハラスメントと似ていませんか?

ハラスメント講習で私は、特に社長や取締役など、経営基幹職の方を「ハラスメント高リスク者」とお呼びしています。企業トップに代表される強い権力や発言権を持つ人は、そうでない人と比べてハラスメントをしてしまうリスクが高いのです。

そしてそういった高位職の方は部下にハッパをかけたつもりで、激励の気持ちから、成長を促そうとハラスメントをしてしまうことが多いのです。有名人で本件に関する意見発信をしている人に、一定の年齢層で特に男性が多いと感じるのは、正にこの高リスク者とプロフィールが一致します。いわゆる上級国民として、功成り名を遂げた人が意見発信者の多くを占めます。

・危機対応の視点での結論は一択
その後の報道で、元代表選手は飲酒もしていた、さらに今回初めて喫煙が見つかったのではなく、これまでも問題行動があったのではないか、通報という内部からの声が上がったなどということが伝えられています。そうなると「たった一回だけ、ついタバコを吸ってしまった」だけで代表を降りなければならなくなった、という判断根拠は崩れるのではないでしょうか。

私は人事管理や組織管理に携わる専門家のハシクレとして、処分とは責任に比例するという原則を支持します。オリンピック代表選手とは、国を挙げて支援を受け、原資は税金で構成される資金援助、さまざまなサポートを受ける立場。ただの一般高校生とは責任が全く違います。もう一つ、今スポーツ界ではドーピング違反が厳格に問われます。カゼ薬を飲んだことでドーピングを疑われることすらあり得ます。そこまで厳しく監視される立場。

その立場に見合う責任はとてつもなく重く、それは年齢が十代だからで許されるものなのかと思ってしまいます。十代だろうと何歳だろうと、飛び抜けた能力があれば国の代表に成れ、世界の頂点に立つ可能性があります。この重責を考えれば、厳格な処分は危機に備える上ではやむを得ないといえるのではないでしょうか。

成人は18歳になったのだから、喫煙や飲酒も18歳で認めろ的な意見は本件とは全く切り離すべきです。事件が起こってから泥縄式に判断への疑義を唱えるのは何の解決にもなりません。本件とは全く別に、成人年齢が18歳であることは議論しなければなりません。

処分擁護か反対か、この論争は年齢や価値観をめぐる世代間闘争であり、事情が詳しく伝えられるにつれ、第二幕に進むというよりは、価値基準をアップデートした方がより多くの賛同を得るようになっているのではと思います。

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増沢 隆太

株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。

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