イノベーションは顧客との対話から生まれる。社名のもととなったコピー機の複写技術に始まりGUIやイーサネットを開発したゼロックスが、今もっとも重視している課題、それは顧客と話すことだ。
2種類から600種類へ。ゼロックスが開発した高速デジタル印刷機
「iGen3」で印刷できる紙の種類は、当初の300倍にもなった。いろ
いろな紙に対応することは、おそらくそれほど簡単なことではない。
とはいえ顧客の要望に応えつづけているうちに、いつの間にか増えて
いった。その結果が600種類だという。
実はゼロックス社は、すばらしい技術力を持つにもかかわらずその力
をビジネスに結びつけることが意外に下手な会社だった。GUI(グラ
フィカル・ユーザー・インターフェイス)技術も開発はしたものの自
社で実用化するには到っていない。パソコンに初めてGUIを採用した
のはAppleであり、Macintoshは革命的なマシンとして熱狂的なファ
ンを生んだ。余談になるけれどMacが搭載したGUIを何とか真似した
のがWindowsだというのは、とても有名な話だ。
では、なぜゼロックスは極めて高度な技術力を持ちながら、それをう
まく製品化できなかったのだろうか。
その原因は同社ならではの開発・研究指向にあったのではないだろう
か。確かにすばらしい技術は開発する。とびっきりのハイ・スペック
を実現しもする。が、そうした技術と顧客が求めるものがなかなか一
致しない。
その好例が高速デジタル印刷機「iGen3」だろう。この印刷機の情報
処理機能はパソコン約100台分もあるという。さらにはわずかに髪の
毛半分の狂いも見逃さないほどのハイ・スペックをも誇る。確かにす
ばらしい。しかし、この印刷機を使う企業にとっては、どれだけたく
さんの種類の紙に印刷できるかということも、重要な課題だったの
だ。
このユーザーニーズに気づいたゼロックスは、顧客から寄せられる要
望に応え続け、改良を繰り返す。やがて印刷できる紙の種類は飛躍的
に増えていき、遂には600種類にもなった。この対応ぶりがゼロック
スの変化だという。
同社のエンジニアの多くは以前、顧客と会うことはほとんどなかった
という。日夜研究室にこもり、ひたすら高い技術の追求に明け暮れ
る。その成果は確かにあった。時代の先駆けとなる技術が数多く生み
出されてきた。しかし、技術は顧客に使われてこそ初めて生きるもの
だ。単にスペックがいくらすごくても、それを使いこなせるユーザー
がほとんどいないような技術に意味はない。
そのことに気づいた同社は「顧客との徹底した対話」を始める。エン
ジニアたちは
「電話だけでなく積極的に出張して顧客の作業環境を自分の目で見て
問題点を探すことを求め」られる(日経産業新聞2008年4月9日付1
面)。
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