PEST(ペスト)といっても、当然のことながら病気の話ではない。マクロ環境分析のフレームワークのこと。俯瞰して世の中の動きを把握するのは常に重要なことなのだが、ついつい見落としがちになる。しかし、大きく環境が変化している今日、それを怠れば致命傷になるのだ。
PESTはマクロ環境を構成する4つの要素の頭文字である。
・Political=政治的な規制事項の影響要因
・Economical=経済環境の影響要因
・Social=社会情勢の影響要因
・Technological=技術的成熟度の影響要因
上記の4つの切り口で、自社や自社の属する業界に大きなインパクトを与える要因がないか。あるとしたら、それはプラスに作用するのか、マイナスに作用するのかといったことを洗い出していく。
それなりにメジャーなフレームワークなのだが、実際には3C分析の「市場環境(Customer)」、「競合環境(Competitor)」などに入れ込むことで割愛されてしまうことも多い。しかし、冒頭述べたように環境変化の激しい時期には丁寧に分析していくことが求められるのである。
使用上の注意としては、項目ごとに影響の現れかたが違うことを理解しておくことだ。一番早く、劇的に影響が出るのはTechnological(技術的成熟度)だろう。ある新しい技術が登場し、自社の技術が陳腐化して競争力を失う。それは前述の3C分析における競合環境でも洗い出せるが、新たな技術で業界自体が地盤沈下することも珍しくない。
例えば印刷業界や写真プリントの業界。PCの普及で誰もが自分で印刷やプリントができるようになり、受注量が激減。ペーパレス化も追い打ちをかける。企業ユーザーやコンシューマ自身ができないような高付加価値な製品・サービスを実現できる技術が実現しなければ復活は難しい。
同じようにあっという間に環境が変わってしまうのがPolitical(政治的な規制事項)だ。規制が強化されれば当然、身動きができなくなる。最近では貸金業法が改正され、中小零細業者の廃業が相次いでいる。では、緩和されれば良いのかと言えばそうでもない。薬事法の改正によって、セルフ販売が可能になり大きく成長したドラッグストア業界も、もう一段の規制緩和が予定されており、薬剤師の常駐も取り扱う薬の種類によっては不要となる。その影響で、大手スーパーが参入してくることになり、恐らくドラッグストアは草刈り場にされるだろうといわれている。規制だけでなく、昨今は大きく法律関係が動いているので特に注意が必要だ。
さて、じわじわとやってくる変化もある。Economical(経済環境)とSocial(社会情勢)は密接に関連しながら、確実に影響を及ぼしてくる。経済環境も正に今、潮目が変わろうとしている。もはや好景気などというキーワードは誰も使わない。そうなると、雇用情勢にも影響してくる。家計にも。また、少子高齢化は単なる統計上の数字だけではなく、いよいよ経済にも具体的な影響を及ぼしてきた。
以上のように、PESTの項目は、概ねどのような業界に属するのかによって影響の受け方は異なるものの、世の中は常に動いている以上、常にウォッチしていく必要があるのだ。
少しでも変化の予兆を感じたら、きちんと詳細な分析をして、今後どうなっていくのかを把握し、手を打たなければ「ゆでガエル」になる。水が温かくなってきたなと思っても、そのまま鍋の中で泳いでいる蛙は、やがて水が熱湯に変わりぷっくらとゆであがってしまうという例えだ。
生生流転。世の中は変化するからこそ面白いともいえる。変化をおそれることなく、それをチャンスとできるよう、常に分析を怠らないことである。
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2008.06.06
2008.06.15
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。