ウサギ上がりカメ下がり:土地価格という日本経済の宿痾

2022.07.23

ライフ・ソーシャル

ウサギ上がりカメ下がり:土地価格という日本経済の宿痾

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/流動性を上げ、時代に応じた利用の新陳代謝を図るには、取得からの年数で、どんどん累進するような土地税制にすればいいのだが、そんなことができようはずも無い。結局、だれもなにもできない。もはや何も生み出さない空き地に夢だけを描いている所有者たちが死滅して、相続人たちが投げ出すのを待つしかないのかも。/

農業でも、商業でも、工業でも、その土地相応の利益水準でなら新規事業も可能だろう、と思う業者がいないではないのだが、所有者がかつてのバブルの夢の延長線にある法外な売却価格、賃貸料に拘泥するために、交渉がまとまらない。このために、空き地や駐車場などとして、半端に放置されるために、いよいよ人が寄りつかなくなり、土地相応の利益水準も下がり続けて、いよいよ所有者の夢との乖離が深くなり、話にもならなくなっていく。

そもそも、上物の資金調達の源泉が土地。所有者に建物や事業の資金を提供してきた日本の金融機関は、長年、土地を根本担保としてきた。その実勢価格が下がるなどということがあってはならない。そんなことがあれば、金融機関そのものの信用危機に直面する。だから、絶対に安値で市場に売却することを認めない。たとえ借り手が破綻しても、ぐるっと身内の業者で回して、簿価は維持する。しかし、それは夢の数字。

こんな夢と現実の乖離が露呈するのは、相続のとき。どう考えても自分で使う予定が無い、将来性の無い地方の土地など、相続したところで、いくら安いにせよ、税金や管理費を永遠無限に垂れ流す親の呪いのようなもの。ババ抜きのごとく、たとえタダ同然でも、今後、だれか他人が引き取ってくれる見込みさえも、まったく立たない。空き家バンクなどと言ってみたところで、いまさら上下水道無し、プロパンのみ、砂利道一本の廃墟村の家屋に、修繕費1千万以上もかける酔狂な者は、芸術家でもいないし、だれもそんな余裕余力も無い。

都会でもきわどい。経済成長期、築50年以上の老朽ビルなど、耐震防災、冷暖房、IT環境、等々、いまの規格に合うような作りになっているとは限らない。歴史的建造物でもないのに、へたに大規模改修するくらいなら、いっそ更地にして高集積の今風のビルとして、ゼロから建て直した方が早い。とはいえ、それだけの自己資金があるか。他人に売っ払うにしても、戦後のどさくさで確定したような、ゴミゴミした場所のL字型の土地など、よほどのデベロッパーが周辺全部をのっぺして再開発するのでもなければ、やはり割が合わない。そんなことができるのは、日本に何社も無く、それらもすでに既存計画で手一杯。そもそも、周辺も、ビルに建て変えた時期がまちまちで、地域で話がまとまる可能性も皆無。

流動性を上げ、時代に応じた利用の新陳代謝を図るには、取得からの年数で、どんどん累進するような土地税制にすればいいのだが、民主主義下で、国政も地方も政治家は地元密着。だから、そんなことができようはずも無い。結局、だれもなにもできない。もはや何も生み出さない空き地に夢だけを描いている所有者たちが死滅して、相続人たちが投げ出すのを待つしかないのかも。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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