近年、日本企業は「製品スペックで勝っても、事業で負ける」というような問題に直面することが多くなりました。情報や知識、技術よりも上位にある事業概念レベルでの創造力に弱さがあることが1つの要因ではないでしょうか。「概念のイノベーションを起こす力」ともいうべき、事業に対する在り方、中核的価値、グランド・コンセプトを打ち立てる思考力が、いま強く求められています。
さらに発想型Cの事例をあげるなら、ディズニーランドもそうでしょう。ウォルト・ディズニー・カンパニーは豊富なアニメーションコンテンツをつくりあげ、保持してきました。この商材を映画や書籍として売ることは通常の発想です。しかし、それを「遊園地として売る」という事業概念の変換を行い、ディズニーランドを生んだウォルト・ディズニーの発想は天才的です。
以上、「アズ・ア」モデルの発想法を「X as (a) Y」として3つの型で整理しました。ちなみに上記事例のX、Yに当てはめた文言は私なりに想察したものです(メルセデス・ベンツ社の例を除く)。各社は実際もっと別の文言で考えたかもしれません。しかし、XをXとして売るのではなく、XをYとして売る変換アプローチを取ったことは確かです。
いずれにせよ、コモディティ化の波にのまれようとする自社の事業を「X as (a) Y」という型で概念変換する作業はきわめて有効であり、大きなゲームチェンジを起こす可能性があります。
また補足しておきますと、「アズ・ア・サービス」というのは、たまたまYの箇所に「サービス」がきているだけです。Yにくるのは「サービス」だけとはかぎりません。冒頭にも書いたとおり、「アズ・ア・サービス」は「アズ・ア」モデルによる事業概念の再構築のアイデアの1つということになります。
単にサブスクリプション型で売るのが「アズ・ア」モデルではない
最近、ともかくモノをサブスクリプション型でサービス的に売れば「アズ・ア・サービス」だ、のような感じになっています。しかし、そうではありません。例えば、ミネラルウォーターの定期宅配サービスを「アズ・ア」モデルによる事業概念の再構築とみなせるでしょうか。すなわち、「ミネラルウォーター・アズ・ア・サービス」として新しい地平を拓くビジネスなのでしょうか。……結論から言えば、これは単なる課金方法の変更であり、「アズ・ア」モデルの概念変換とはいえません。ここには何ら新しい概念の光が当たっていないからです。
「アズ・ア」モデルによる事業概念の再構築の要件の1つとして、お客様に届ける価値を「モノ的価値」から「コト的価値」へ。さらには「コア的価値」へ、という発展がなくてはなりません。この3つめのコア(中核)的価値を事業の基軸にすることが決定的に重要です。
ミネラルウォーターという製品の中核にある価値は何でしょうか? それを主観意志的に打ち出す必要があります。それが例えば、「健やかな体内環境維持の源」だとしましょう。そうすると、「私たちの事業は、ミネラルウォーターを売ることを通じ、お客様の『健やかな体内環境維持のお手伝い』をすることだ」といった提供価値宣言へと昇華していきます。
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2015.07.10
2009.02.10
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。