「それって主観的な見方だよね。もっと客観的にながめないと……」。ビジネス現場のやりとりでは、よくこんなフレーズが出てきます。このことは暗に、客観が主観より優れていることをにじませているようです。しかし、はたしてそうでしょうか───
例えば、「事業」をどうとらえるか。
事業とは何かを考える場合、まず客観的に定義するなら辞書を引けばいいでしょう。『広辞苑〈第七版〉』にはこうあります───「事業とは、一定の目的と計画とに基づいて経営する経済的活動」。
客観的定義とは、いわば世の中の多くの人がとらえる最大公約数的な部分を抽出して表現することです。辞書の言葉はその典型です。この最大公約数の部分で物事の解釈を行なうことは間違いがないという点で安全ですが、別の角度から言えば没個性に陥ることでもあります。
また、「事業とは、一定の目的と計画とに基づいて経営する経済的活動」という辞書の定義を持ったとしても、どこからも事業への意志はわいてきません。客観的定義は、知・情・意のうちの知は満足させても、情・意に刺激を与えるものではありません。
では、偉大な事業家は事業をどうとらえるか。
松下幸之助は「(松下電器産業にとって)事業とは人づくりである」と言いました。また本田宗一郎は本田技術研究所の社長に就任した際、「(ここでの)事業は、どういうものが“人に好かれるか”という研究である」と言いました。これらはその人なりの深い咀嚼がなされた主観的な定義です。客観を超えたところで意志的につくり出した宣言です。
表層的な決めつけや感情的な偏見ではなく、深い把握・深い決意から出る主観であれば、それは独自性としてむしろ研ぎ澄ませていくべきものです。哲学者ニーチェは、「この世界に事実というものはない。ただ解釈があるのみ」と言いました。私たちは結局、主観的解釈で自分の生きる世界を決めていくのです。
客観や論理・科学は、物事をとらえる土台として、また、多くの人を納得させる手段として重要なものですが、それ自体は目的を与えてくれるものではありません(もちろん科学者自身は、万人に説明がつく理論を構築することが職業上の目的になっていますが、その観点はここでは脇に置きます)。
肯定的な意味での「主観的に考える」、すなわち、物事に力強い自分なりの解釈を与えること。これによって目的・意味が創出されます。これこそが独創性豊かで強い仕事・キャリア・事業を生み出す源泉と言えます。
客観は物事をとらえる土台・手段
以上を踏まえ、物事のとらえ方を3つのフェーズに分けて整理しておきましょう。
フェーズⅠは「フワフワした主観」。この状態はいまだ思考が脆弱であり、ここに留まっているかぎり、自分がいくら感情的にその事業アイデアに熱を上げても、周囲を説得できないでしょう。ただ、時代をなんとなく感じている、流行の変化を漠然と認識するといった場合はこのフェーズでも十分ではあります。
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2009.02.10
2009.10.27
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。