この新型ウイルスは私たちに3つの戦い──生物的な戦い、経済的な戦い、そして世界観を再構築する戦い──を強いています。本稿では、人間がもつ豊かな抽象化能力について触れ、そこからいかにコロナ後の世界観をつくりだしていくかについて述べたいと思います。
国連は2015年、「SDGs:Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」を掲げ、加盟各国に啓蒙をしています。この中の1つに「働きがいも経済成長も」とあります。私はこの「経済成長」という文言が気になります。というのも、18世紀の産業革命以降、「経済成長」信仰が人類を際限のない欲望へと走らせ、今日の持続可能が難しい状況を生んでいるからです。まさに先のマンフォードが言及したように、人類は「アクセルしかついていない自動車」を開発し、その加速スピードをみずからコントロールできない存在になっているのです。
成長が不要なわけではありません。成長と合わせて「成熟」という観念と行動なしには、個も全体も存続できないことを知るべきです。
このcovid-19は賢いウイルスと言われています。宿主である人間に症状を出させなかったり、潜伏期間が長かったり、なるほど自己を生かし、広めることの戦略に長けています。しかし根本的には、愚かです。自己をたくみに増殖することで、結局は宿主を死なせ、みずからも滅びるからです。私がcovid-19に助言するとすれば、こうです───乳酸菌を見習えと。乳酸菌のような善玉菌は、宿主との共生をはかり、個と全体の存続を可能にしています。善玉菌は自制を心得ているのです。
成熟とは「やれるのに、あえてそれをやらない」「捨てることができる・離れることができる」、すなわち自制です。真の自由は自制とともにあります。
冒頭で、このウイルスとの戦いは3つあると書きました。すなわち、「生物的な戦い」「経済的な戦い」「世界観を再構築する戦い」。
周囲に3番めの戦いのことを話すと、「いや、そんな硬くて高尚なことはいま考えられないよ。それよりまず1番めと2番めが肝心じゃないか。命あっての人生だよ」というような反応が返ってきます。私にとっては、1、2番めだけを考えているほうが、気が滅入ってしまいます。3番めに想いを巡らせることで、1、2番めに対する余計な恐怖心や不安が遠のき、結果的に目先のことに立ち向かう気力が充満してくるわけです。心の真の平安は「壮大な時空への決意」の中に生じると思います。
最後に、きょうも1日、医療基盤・社会基盤を支えてくださった医療従事の方々、そして生活物資供給に関わる産業の方々に最大級の感謝と敬意を送ります。
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2015.07.17
2009.02.10
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。