この新型ウイルスは私たちに3つの戦い──生物的な戦い、経済的な戦い、そして世界観を再構築する戦い──を強いています。本稿では、人間がもつ豊かな抽象化能力について触れ、そこからいかにコロナ後の世界観をつくりだしていくかについて述べたいと思います。
現下、私たちの社会は新型コロナウイルスの拡大によって甚大な影響を受けています。このウイルスは私たちに3つの戦いを強いています。
1つめに「生物的な戦い」。いったん感染してしまえば、単純に生物どうしの戦いになります。ウイルスは神様ではありません。「この人は善人だから手加減してあげよう」とか、「こいつは悪い人間だからこらしめてやろう」とか、そういった判断はしません。すべてのヒトに対し、平等に戦いを挑んできます。そこが自然の厳粛なところです。
2つめに「経済的な戦い」。多くの人が労働をお金に変える活動ができなくなっています。国全体も支出するお金が莫大になり、著しい財政悪化が避けられそうにありません。
3つめに「世界観を再構築する戦い」です。本稿を書いている時点では、このコロナ禍がどれくらいの長さで、どういった収束(終息)をみせるかはわかっていません。が、いずれにせよ、大きな変化がやってくるにちがいありません。といいますか、ここから私たちが何か大きな学びを得て、大きく変えていかなければ、さらに大きな危機をみずから招くことになりかねないでしょう。
本稿では、人間がもつ豊かな抽象化能力について触れ、そこからいかにコロナ後の世界観をつくりだしていくかについて述べたいと思います。
「魔法使いの弟子」という寓話をご存じでしょうか。ヨーロッパで古くから語られる寓話ですが、1940年、ディズニー制作のアニメーション映画『ファンタジア』によって幅広く知られることになりました。映像化されたシーンはこんな感じです───
ミッキーマウス扮する魔法使いの弟子は、師匠から水汲みを命ぜられ、両手に木桶を持って家の外と中を往復している。折しも師匠が出かけていなくなり、ミッキーはここぞとばかり、見よう見まねの呪文を箒(ほうき)にかける。すると箒は木桶を両手に持って歩き出し、自分の代わりに水汲みを始める。
しめしめラクができるぞとミッキーは居眠りをする。しかしその間にも水は家の中の器にどんどんたまり続け、ついにはあふれ出す。ミッキーは目を覚まし、慌てて箒を止めようとするが、箒にストップをかける呪文がわからない。ミッキーは斧を持ち出して、箒を切り刻んでしまう。ところが切られた破片がそれぞれ1本の箒となってよみがえり、水汲みを始める始末。箒の数は幾何級数的に増えていき、ミッキーは洪水状態の家の中であっぷあっぷと溺れる……。
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2015.07.17
2009.02.10
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。