政府は今年(2019年)3月7日の未来投資会議で、見知らぬ人同士がタクシーに乗る「相乗り営業」を、全国一律に解禁する方針を打ち出した。 会議の議長を務める安倍首相は「利用者が低廉な料金で移動することを可能とする」と述べ、相乗り型タクシーの普及に向けた具体的な検討を指示。国土交通省が導入ルールの整備に向けて詳細を詰め、今年度中の実現を目指す方向だ。 今回、政府が普及を目指す「相乗り型タクシー」とは、どのような仕組みのサービスなのか。導入する目的やメリット・デメリットとともに、今後の交通サービス改革に向けた課題について考察する。
こうした事情を受け、政府は今回の解禁によってタクシー利用者の裾野を広げ、東京五輪でのタクシー不足解消にもつなげたいとしている。また、人口減でバス路線の縮小が進む過疎地や、タクシーのドライバー不足が進む地方などで、限られたタクシーを住民の移動手段として有効に活用する狙いもある。
利用者を獲得したいタクシー会社としても、アプリの開発・導入などにコストはかかるが、相乗りによる実車効果のアップ・収益増が見込めることから、解禁を歓迎するムードが広がっているようだ。
利用希望者が増えなければサービス自体が成立しない可能性も
では、相乗り解禁によって実際にタクシーの利用者は増えるのだろうか?
国土交通省は今年1~3月、東京都内で大和自動車交通グループと日本交通グループのタクシー約950台で、専用アプリを使った相乗りサービスの実証実験を実施。実験には募集した一般消費者が約5000人が参加し、利用者のうち200人が回答したアンケートでは、7割の人から「また利用したい」との意見が寄せられたという。
しかし、実験に申し込んだ約5000人のうち、実際にサービスを利用した人は1割以下にとどまり、利用率の低さが課題となった。利用者が少なかった理由について国土交通省では、「母数が少なく、十分にマッチングしなかった」と分析。これは「母数=利用希望者」が増えなければマッチングの確率が上がらず、サービス自体が成立しないということを示している。同様に、利用したい人が少ない深夜や、人が集まらない場所でもマッチングしにくくなる可能性が高く、利用できるかどうかは「運」にもよるため、確実性という点では少々頼りない。
また、相乗りについては「他人に自宅の場所を知られたくない」「異性や酔っぱらいとの相乗りは避けたい」といった懸念の声もあり、どの程度まで利用者が増えるのかは未知数だ。そうした点も踏まえ、誰でも安心して利用できる仕組みをどう作り、身近な足として市民権を得ていくかが、普及に向けた大きなカギとなるだろう。
過疎地での「自家用有償旅客運送」の規制緩和も検討
さらに、もともと人口が少ない地域では、マッチングの確率が低くなるうえ、ドライバー不足でタクシー自体が少ないといった問題もある。政府はそうした点も踏まえ、交通機能の維持に課題を抱える地方に限定して、一般ドライバーが自家用車で住民を運ぶ「自家用有償旅客運送」の規制緩和も検討している。
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