いま、首都圏を中心に「高級食パン専門店」が次々とオープンしている。 素材や製法にこだわった食パンだけを売る業態で、全国展開する関西の人気店に続き、東京・神奈川の気鋭店も続々と参入。従来の食パンにはない風味と食感が消費者を魅了し、1斤400円以上という高価格にもかかわらず、飛ぶように売れているという。店の前には開店前から長蛇の列ができ、数日前に予約しないと購入できない店もあるそうだ。 そこで今回は、ジワジワと広がる高級食パンブームとともに、年々ヒートアップする市場競争の背景にフォーカスする。
銀座に志かわは3年間で全国に100店を出店する計画を進めており、その2号店として2019年1月に「船場本町店」(大阪市)をオープンさせた。食パン激戦区といわれる関西にあえて挑み、本場で地歩を固めて全国展開の足がかりにしていく狙いだ。乃が美とも真っ向対決となる関西で、銀座に志かわがどこまで市場に切り込んでいくのか、今後の高級食パン競争の行方に注目が集まっている。
名前は奇妙だが、味は本格派の「考えた人すごいわ」
一方で、個人オーナーの小規模店ながら、他にはないアプローチで大ブレイクした気鋭店もある。
2018年6月、東京都清瀬市にオープンした高級食パン専門店「考えた人すごいわ」。なんとも奇妙な店名と、食パンの域を超えた至高の味わいがテレビやネットで話題となり、たちまち行列のできる人気店となった。続く11月には、横浜市港北区に待望の2号店がオープン。ふんわり口どけのよい生食用の「魂仕込(こんじこみ)」1本(2斤分)864円と、フルーティーなマスカットレーズンをブレンドした「宝石箱」1本(2斤分)1058円の2種類のみを製造・販売している。
同店をプロデュースした岸本拓也氏は、横浜市で自身のベーカリーを経営するかたわら、パン店開業を目指すオーナーを支援する「ジャパン・ベーカリー・マーケティング」の代表を務め、「行列のできるパン店の仕掛け人」としても知られている。
そんな岸本氏が、「考えた人すごいわ」のパンを開発する際にこだわったのは、生地の「風味(甘み)」と「食感(口どけ)」。そして、原料の配合を変えながら何度も試作を重ねる中で、その2つのバランスが完璧な形でシンクロした瞬間、思わず出てきた言葉が「考えた人すごいわ」。理想のパンが完成した感動のひと言を、そのまま店名にしたというわけだ。
美味しさを超えた「体験」や「付加価値」を売る
岸本氏は「考えた人すごいわ」のほかにも、「午後の食パン、これ半端ないって!」(神奈川県相模原市)、「うん間違いないっ!」(東京都中野市)という、これまた風変わりな名前の食パン専門店を次々とプロデュース。オーナーや商品の特徴はそれぞれ違うが、いずれも岸本氏によるインパクトのあるネーミングと、本格的な食パンの味わいのギャップに魅了され、遠方から訪れる客やリピーターが続出しているという。
もちろん、奇抜な名前をつければいいというものではなく、「いい意味での『ギャップ=裏切り』がなければ繁盛店は作れない」と岸本氏。氏自身、東日本大震災の被災地でパン店開業プロジェクトに携わり、パンを買いに来る人も店の人も楽しくなるサプライズを仕掛けたことで、みんなの笑顔や元気が地域に広がっていくのを実感したという。そうした経験からも、美味しさを超えた「体験」や「付加価値」を売っていくことで、パンの可能性を地域から発信していきたいと話す。
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