AIが人間の職を奪うかどうかの議論において真の問題は、AIの高度化ではなく、むしろ人間のAI化です。つまり、人間がAIと同じ土俵に下りてしまっていて、物事の処理能力で競走をすることです。それを防ぐのは能力の高次化です。
メタ能力の「メタ(meta)」とは「高次の」という意味です。たとえば心理学の世界では、「メタ認知」という概念があります。メタ認知とは、認知(知覚、記憶、学習、思考など)する自分を、より高い視点から認知するということです。それと同じように、本稿では「能力をひらく能力」として「メタ能力」というものを考えます。
◆【Ⅰ次元能力】能力をもろもろ保持し、単体的に発揮する
「〇〇語がしゃべれる」「数学ができる」「記憶力が強い」「幅広い知識がある」、「文章力が優れている」「表計算ソフト『エクセル』の達人である」、「〇〇の資格を持っている」「運動神経が鋭い」「論理的思考に長けている」―――これらは単体的な能力・素養です。これらを発揮することがⅠ次元ととらえます。
◆【Ⅱ次元能力】能力を“場”にひらく能力
私たちは仕事をするうえで、能力を発揮する「場」というものが必ずあります。たとえば、家電メーカーの営業部で働いているとすれば、その営業チームという職場、営業という職種の世界、そして家電という市場環境。一般社員であるか管理職であるかという立場。これらが「場」です。そして場はそれぞれに目標や目的を持っています。
私たちは、もろもろに習得した知識や技能(=Ⅰ次元能力)を、「場」に応じてさまざまに編成し、成果を出そうと努めます。このⅠ次元能力の一段上から諸能力を司る能力が、Ⅱ次元能力です。俗に言う「仕事ができる人」というのは、単体の能力要素をただ持っている人ではありません。どんなプロジェクト、どんな職場、どんな立場を任せられても、Ⅰ次元能力を自在に組み合わせて、着実に成果を出せるという人間です。
単に「~を知っている」「~ができる」というレベルと、場の要請を感じ取り、それに応じた成果を出せるというレベルは明らかに違います。この違いこそ、Ⅰ次元能力とⅡ次元能力の違いです。
◆【Ⅲ次元能力】能力と場を“意味”にひらく能力
能力の高次元へのシフトはこれで終わりではありません。もう一段高い移行がⅢ次元能力です。これは自分が持つ諸能力とそれが発揮される場を、意味のもとにひらいていく能力です。
例えばここで、大学でロシア文学を専攻したAさんを例にとってみましょう。Aさんにはもちろんロシア語で読み書きできる能力があります。これはⅠ次元能力としての素養です。
そんなAさんは総合商社に就職し、ロシアに自動車を輸出する部署に配属になりました。そうした場を与えられたAさんにとって必要になるのは、ロシア語だけでなく、貿易知識、交渉術、人脈構築力、異文化理解などさまざまな業務遂行能力です。これらを身につけ、組み合わせて自動車販売の成果を出していく。そして事業・組織に貢献していく。これがⅡ次元への能力高次化です。こうすることで単にロシア語が話せるAさんは、仕事のできる商社マンになっていくのです。
次のページ【Ⅰ次元能力】
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
関連記事
2009.10.27
2010.03.20
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。