地方自治体への寄付金制度として2008年に導入され、いまや全国で13万人が利用するふるさと納税が、大きな曲がり角に差しかかっています。 皆さんもご存じの通り、ふるさと納税を利用すると、寄付の額に応じて居住地の税控除が受けられるほか、地方特産物などの返礼品を受け取ることができます。こうしたメリットやお得感から、居住地以外の市区町村に寄付する動きが年々加速し、東京23区では本来得られるはずの税収が「危機的に激減」しているのです。 いま、ふるさと納税をめぐって大都市で何が起きているのか……。深刻な税収減にあえぐ東京23区の現状と、対策に乗り出した各区の動きに2回シリーズで迫ります。
世田谷区は約40億円、港区は約30億円の減収に!
ふるさと納税は、納税者が居住地以外の自治体に寄付すると、寄付額から2000円を引いた金額が、居住地の住民税や所得税から減額される制度です(控除額は収入により多少異なります)。よって、他の自治体に寄付する住民が増えるほど、居住地の自治体に本来納められるはずだった税金が減ってしまうのです。
その影響について、東京23区の区長らが組織する特別区長会は、2018年度のふるさと納税による23特別区の税収減は合計で約312億円に達し、2017年度より約80億円の減収になるとの見通しを示しました。
税収減が10億円を超える区は2017年の9区から14区に増加し、最も減収の大きい世田谷区は約40億円、続く港区は約30億円の減収になると見られています。年々拡大する税の流出に区長らも危機感を募らせ、「このままでは、区政運営や行政サービスに支障が出かねない」と懸念する声も上がっています。
「ふるさと納税で住民の格差が拡大」と言及する世田谷区長
東京23区の中で最も税収が減っている世田谷区では、ここ数年で減収額が急激に拡大しています(表参照)。同区のふるさと納税による減収額は、2014年度が9000万円 ⇒ 2015年度が2億6000万円 ⇒ 2016年度が16億円 ⇒ 2017年が度31億円と、わずか3年で30倍以上に拡大。そして2018年度は40億円と、さらに減収額が跳ね上がると見られているのです。
また、税収の激減とともに大きな課題となっているのが、全国最多とされる待機児童の解消です、厚生労働省によると世田谷区の待機児童数は、2013年4月時点の884人 ⇒ 2014年同期1109人 ⇒ 2015年同期1182人 ⇒ 2016年同期1198人 ⇒ 2017年同期861人と推移し、5年連続で「待機児童数全国1位」というワースト記録を更新し続けています。
こうした点を踏まえて世田谷区長の保坂展人区長は、「30億・40億という減収は、明らかに限度を超えた影響額だ。30億円あれば学校1校の改築もできるし、保育園20ヵ所の増設・運営費もまかなえる。人口増で保育・子育て支援の需要が高まる中、大都市は富裕だという論は実体を捉えていない」と指摘。さらに、比較的裕福な年配層がふるさと納税で節税することによって、子育て世代や収入の低い家庭が影響を受け、その格差がますます拡大していると言及しています。
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