もし、いまのあなたに一心不乱に没頭できる職業上の目標が確固とあり、そこに邁進しているのであれば、それはとても幸福な働き人です。「登山型のキャリア」でどんどん突き進めばよいでしょう。しかし、世の中には、そういった明確な目標が見出せない人のほうが圧倒的に多いものです。その場合は「トレッキング型キャリア」でいっこうにかまいません。
つまり、「登山型のキャリア」とは、「プロ野球選手になってホームラン王をとる!」とか「弁護士になって多くの人を助けたい!」、あるいは「新薬開発の先進企業に入ってガンの治療薬をつくりたい!」「保険会社で日本一の営業マンになる!」などのように、唯一絶対の頂上を決めて脇目も振らずそこを目指すキャリアです。
他方、トレッキングの場合は、登頂のように明確な目標があらかじめあるわけではない。山の中を回遊して、何か自分のお気に入りの場所を探すというその活動自体を楽しみにするものです。
途中でたまたま見つけた滝や池が気に入れば、しばらくそこにたたずんでその居心地を楽しめばいいし、道端に咲く植物をいろいろと観察しながら時間をかけて歩くのもいいでしょう。そうした過程で山の奥深い細かなものがさまざま見えてきます。
すなわち、「トレッキング型」のキャリアは、「自分は絶対ここを目指すぞ」というような目標は思い浮かべていない(浮かべられない)けれども、会社内でいろいろな部署を経験したり、または転職したりしながら自分らしさを少しずつ見出しながら、キャリアを形成していく形です。
あるときは営業現場で商品を売ることの楽しみや苦労を知ったり、あるときは企画部門で新しいアイデアを打ち出すことの奥深さや大変さを知ったり。また、業界を越えて転職したときなどは、業界ごとで仕事に対する考え方がこんなに違うんだ、と感じることもあるでしょう。
そうしてトレッキングを続けていくと、次第に山のことがわかってきて、体力や技術がついてきます。すると自分の登りたい山が見えてきて、その頂上に挑戦したいなと思えるときがやってくるかもしれない。ですから、「いま何を目指してよいかわからない」という人に対し私は、あせらずトレッキングを楽しむことでいいのではと答えています。
◆山(=働くこと)は大きな喜びを内包している
私自身も、20代、30代はトレッキング型でした。メーカーや出版社など業界をまたいで転職し、人から「変わった転職してますね」と言われることもしばしば。でも、その過程で、実にさまざまな仕事を経験しました(しかし、その経験の幅はいま全部生きています)。
そして40代になって、人財教育事業という山がすーっと見えてきました。「これをライフワークにしたい。この道を自分なりに究めたい」と思い、独立しました。ですから、いまはどっぷり登山型のキャリアです。私がいま見つめている頂上は、「働くとは何か?の第一級の翻訳者になる!」です。ここを目指し、日々、一歩一歩足を進めています。
登山型とトレッキング型とで、どちらがよいわるいという問題ではありません。大事なことは、山自体(=働くこと)を楽しんでいるか、そしてその活動を通して自分を成長させているかということです。
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2009.10.27
2010.03.20
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。