3月に入り、日銀の金融政策が今後どの方向に向かうか、市場の関心は高まってきているように思います。それは為替では、ドル円で円安傾向に明確に向かわない一つの要因になってきているのではないかと筆者は考えます。
黒田日銀総裁は、3月初旬に「2019年度頃には出口を検討していることに間違いない。」そして国会での答弁でも「出口戦略は情勢に合わせて最適な組み合わせを用いる。出口戦略は短期政策金利とバランスシートの調整が論点である。現時点では2%目標とはかなりかい離があるのは事実である。」と発言されています。極めて重要なヒントがそこにはあると筆者は考えます。その後の発言は、大きくトーンダウンし、現在は緩和路線進行中であると市場にメッセージを送る努力をされているのではと思います。
現在の日銀の金融政策を検証しましょう。日銀のインフレ目標を達成するために異次元の量的・質的緩和を現在継続しています。その内容は、
短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に▲0.1%のマイナス金利を適用する。
長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営する。
というものです。長期金利については、イールドカーブ・コントロールという手法で、日銀はインフレ目標2%に達しない限り、国債買いオペで日銀が金利上昇させないような水準、例えば10年債0.10%では無制限の国債買いオペ、つまり指し値オペを実施する方針を固めています。0.10%以上には絶対に行かせないという日銀の意向を市場は感じることになります。また日銀はトリッキーなオペを実施することがあります。それは、日々の国債オペを減額することです。
この場合は、オペ金額を減額することで、市場に供給する流動性を絞り、金利上昇要因となります。金利低下要因と金利上昇要因を取り混ぜた、いわゆる硬軟の手法を小出しにすることで、金融市場と対話していると言えます。また日銀はETF(上昇投資信託)やREIT(不動産投資信託)を日々購入することで、株式、そして不動産市況の悪化を防いでいると言えます。
そんな波乱に満ちた今年初めからの動きと言えます。そして現在の日本国債10年の利回りの動きは、0.10%~0.00%のレンジにしっかりと固定されていると言えます。0.10%近くになると、指し値オペ、そして0.00%近くでは国債オペ買入れ額の減額と、その意図を明確に示していると言えます。
2%のインフレ目標にはいつ到達するのでしょうか?直近1月消費者物価指数1.4%前年比、そしてコアベースつまり生鮮食料品を除いた消費者物価指数0.9%前年比となっています。
下記グラフ(出所:日本銀行1月展望レポート)は、2012年度からの消費者物価指数(除生鮮食料品)の推移を示しています。そして各政策委員の今後の見通しを青い丸で示し、その中心線が点線で示してあります。これを見ると、確かに2015、2016年のゼロパーセント近辺のデフレ状態からは、脱出してきているように見えます。
また政策委員の中には、1%近くに落ち着いてしまうと考えるリフレ派もいるようです。次期日銀副総裁になる若田部氏はその筆頭と言えます。インフレ懸念はあるものの、慎重であるべきだと発言し、政策運営に異論を挟む存在になるのではと思います。尤も黒田総裁は、市場に出口戦略のメッセージは送りつつ、現状は強力な緩和政策を続けると明言されています。グラフからは、今年後半から、来年にかけて2%のインフレ目標には達すると楽観視しているようにも見えます。こんな現実を数字から見せられると、黒田総裁は、来年度には出口戦略に着手することになると、機会があるごとに市場にメッセージを出し続けているとのではないかと勘ぐります。このことは重要であり、黒田総裁の本音が見え隠れしています。
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