トヨタ自動車は今年1月、米ラスベガスで開催された国際家電見本市「CES(コンシュマー・エレクトロニクス・ショー)で、移動・物流・物販・宿泊など多目的に使える自動運転の電気自動車(自動運転EV)「イー・パレット・コンセプト」を初公開。ネット通販大手Amazonや、ライドシェア大手のUber(ウーバー)などと提携して、自動運転EVを使った商用の移動車両サービスを手がけていくと発表した。 ライドシェアや自動運転車の普及によって消費者のマイカー離れが懸念される中、あえてライバル視する大手IT企業と手を組んだトヨタの狙いとは……? 日本最大の自動車メーカーが描く、チャレンジングなロードマップの背景に迫る。
ホテルや店舗が、利用者のそばにやってくる!?
「私たちはクルマをつくる会社を超え、さまざまな移動を助けるモビリティ・カンパニーへと変革することを決意した」── 未来的なコンセプトカーが数多く出展する「CES(コンシュマー・エレクトロニクス・ショー)のプレカンファレンスで、力強く語ったトヨタの豊田章男社長。その具体的なビジョンを示すのが、ショーの目玉として初公開された自動運転EVの試作車「イー・パレット・コンセプト」だ。
イー・パレット・コンセプトはバスのような箱型の低床形状で、全長4~7mの3サイズを想定。内装に手を加えることで、宅配・ライドシェアや移動型のホテル・物販店・飲食店など、さまざまな用途に対応できるようにする。つまり、その場の状況やニーズに合わせて「利用者のそばにやってくる、多目的なサービスカー」というわけだ。もちろん、そこにハンドルを操る運転手は必要ない。
提携企業との実証事業を、2020年前半からスタート
トヨタの発表によると、さまざまな用途に応じた自動運転EVを提供するだけでなく、それらの車両の企画・保守・保険まで一括管理する事業者向けビジネスを2030年代に実現させるという。普及には各国の規制緩和が必要となるが、まずは2020年の東京オリンピック・パラリンピックで、一部機能を使った車両を試験的に導入。2020年代前半から、アメリカなどで実験車両による実証事業をスタートさせる予定だ。
今回の実証事業で提携するのは日本のマツダのほか、米Amazon、Uber(ウーバー)、ピザハット、中国ライドシェア大手の滴滴出行(ディディチューシン)の5社。ネット通販の商品配送やファストフードの宅配など、提携先の用途に応じた設備を各車両に搭載し、走行データなどをひとつのプラットフォームに集めてサービス改善に役立てる。また、マツダ・Uber・滴滴出行が技術パートナーとして車両設計に加わるほか、Uberや他社が開発した自動運転システムも搭載して、技術・サービス面から幅広く事業検証を進めていくという。
今のところどのような形で実証事業が行われるかは発表されていないが、もしかするとAmazonの無人車両から注文商品が届く(!?)なんて場面に立ち会えるかもしれない。
敵対するライバルと手を組んでも生き残る!
トヨタが今回提携したAmazonは、豊田社長が昨年の株主総会で「米Google、Appleと並ぶ新しいライバル」と名指しした商売敵(がたき)でもある。Uberなどを含むIT企業は、自動運転システムの開発をはじめ、スマートフォンなどのモバイルサービスやコンテンツを幅広く提供し、いまや自動車産業を含めた多くの業界・業種を脅かす存在となっている。ここにきてトヨタがそれらライバルと手を組んだのも「もはやクルマをつくって売るだけでは生き残れない」という自動車メーカーの危機が、現実に迫りつつあるからだろう。
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