「株式市場で、円高や新興国景気の減速などで企業業績への警戒感が根強いなか、増配や自社株買いといった株主還元への関心が一段と強まっている」……。 そんな新聞記事の一節を最近、目にした人も多いことでしょう。 実はこの“自社株買い”がここ数年でグングン増え、「過去最高」を記録していることをご存じですか。
企業の株主対策
株主にとっての主な楽しみは、株価が上がることと、配当が増えること。
株価1000円で1000株買った100万円が、株価が1100円に上がれば110万円になり、その時に売れば10万円もうかります(税は除く)。当たり前ですね。
また、株主には「配当金」を還元する企業も多くあります。「出資してくれてありがとう!」というしるしですね。1株あたり5円とかの配当金を還元していたところ、もうけを出すなどして10円に増やしてくれると(「増配」といいます)、1000株で5000円も増えることになります。このように、株主にとって魅力的な企業の株は人気が高まり、そんな企業はたくさんお金が集まるというわけです。
そもそも企業が株式市場に上場するのは、株を売る形で広く資金を集めたいから。ですから企業は、株主にできるだけ長く株を持ち続けて(売らないで)いてもらうよう、株価を上げ続けたり、配当を増やすよう頑張るわけです。いわゆる「株主対策」ですね。
“EPS”と“PER”
さて、冒頭の記事文面にある「自社株買い」とは何でしょうか?
これは文字通り、企業が自社の株を買うことをいいます。……ちょっと待てよ。「いまさっき『株式市場に上場するのは、株を売る形で広く資金を集めたいから』と言ったではないか。なぜ自社の株を買うのだ」と思われるかもしれません。
自社で株を買うと、その分は「発行済株式数」から減ることになります。そうなると、当然ながら1株あたりの当期純利益(EPS:Earnings Per Share)は増えます。仮に株価1000円の株式を100万株発行し、1億円の純利益を出していた企業が10万株を自社株買いしたとします。
従来のEPS 1億円 ÷ 100万株 = 100円
新たなEPS 1億円 ÷ 90万株 = 111円
ここで、株価収益率(PER:Price Earnings Ratio)という道具を使います。
計算式は、株価÷EPS。つまり、1株あたりの利益に対し、株価が何倍まで買われているかを指す概念です。
つまり、PERが低ければ低いほど、その株価は“割安”ということになります。
株価1000円でEPS100円ならばPERは10倍です(1000÷100=10)。EPSが111円だと、PERは9倍になります(1000÷111≒9)。割安になりますよね。
自社株買いしなければ10倍だったのに、自社株買いしたから9倍まで下がりました。でも自社株買いは企業の業績とは関係ないので、割安なら「この銘柄は本来は10倍のはず」とほかに買ってくれる人が表れます。すると、90万株で本来のPER 10倍に戻す力学が生まれ、株価は1110円に上がるのです(111×10=1110)。
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