昨今、シングルソースかマルチソースか、といった議論がありますが、本当にそのような二律背反的な考え方でいいのでしょうか。それよりも調達購買部門には競争と協調のバランスを取りながらイノベーションを促していくことが求められています。
一社購買になり易い事例としては技術に特異性を持つモノ以外でも、保守、メンテナンスや清掃、その他の継続的な請負業務等が上げられます。例えば、全く新しい案件ではなくサプライヤとの継続契約だったり、設備を買ったあとのメンテナンス契約だったり、システム開発のあとの保守契約だったり、の場合には、通常既存サプライヤーや設備サプライヤ、開発サプライヤ以外のサプライヤーには不利になるでしょう。
その理由は大きく2つ上げられます。完全な仕様、サービスレベルの明確化は難しいので、既存サプライヤ以外のサプライヤは仕様が不明確な前提でどうしてもリスクを回避するために保険をかけた見積をする傾向がある(その分高めになる)というのが1点です。
また既存サプライヤに対してサプライヤの切り替えを図る場合のリスクおよびチェンジコストも発生する、というのがもう1点です。
このようなケースでは事実上一社しかできないということから、サプライヤの競合を見合わせたり、その結果が見えているので時間や手間をかけて見直しをするのはやめておこうということになります。
これは一般論ですが、それに対して先日参加した勉強会で面白い話を聞きました。
それは、「既存サプライヤーはどうしても現状をベースにした提案しかできない、対して新規サプライヤーは全く違ったイノベーション的な提案をしてくる」と。そのため、多くのケースで新規サプライヤーが勝つ、というものです。
案件としては継続的な保守契約ですが、とても興味深いことです。ここではイノベーティブな提案の具体的な内容について書くことはできませんが、話を伺ってみると、確かに既存サプライヤだと考えつかないな、という内容の提案となってます。
既存サプライヤは「知りすぎているからこそ新しいチャレンジができない。」というジレンマを抱えているのです。
サプライヤマネジメントとは品目別の調達戦略に基づき特定のサプライヤと戦略的癒着を作っていくこと、つまりサプライヤを不公平に扱うこと。ですからどうしても既存取引先との関係性づくりや囲い込みが中心になります。一方で、このようなイノベーション機会を新規サプライヤから上手く吸い上げる仕組みや機会を持たないと間違えた戦略的癒着をつくってしまうことにつながるでしょう。
昨近、労働力不足、グローバルでの日本企業の買う力の相対的低下、技術の複合化・複雑化などからサプライヤマネジメントの重要性が叫ばれています。より優れたサプライヤとの関係性を強化し、それを自社の競争力に活かしていこうという考え方がその背景にある考え方です。しかし先に上げた事例からも「イノベーションをもたらすためには囲い込みだけではダメ。」ということが理解できるでしょう。
やはり、競争と協調のバランスを上手く取りイノベーションをもたらすサプライヤマネジメントを行っていくことが極めて重要であることをを改めて実感した次第です。
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2016.09.20
2017.07.11
調達購買コンサルタント
調達購買改革コンサルタント。 自身も自動車会社、外資系金融機関の調達・購買を経験し、複数のコンサルティング会社を経由しており、購買実務経験のあるプロフェッショナルです。