世界最強のディズニーに真っ向勝負を挑み、見事に大差の勝利を収めたテーマパークがある。香港海洋公園である。閉園寸前の土壇場からの大逆転、そこにはどんな戦略があったのか。
いきなりだけれどカイヨワ(ロジェ・カイヨワ、フランスの社会学者、
哲学者。遊びの研究者であり、ついでにいえば筆者の卒論のテーマでも
ある)によれば、人が熱中する遊びは4種類ある。アゴン(競争)、ア
レア(偶然)、ミミクリ(模倣)、イリンクス(めまい)だ。
テーマパークでの遊びは、基本的にイリンクスである。古くはメリー
ゴーランドからジェットコースターに至るまでいわゆる乗り物系アトラ
クションはすべてそう。
ではクラゲはどうなのか。ここが香港海洋公園の知恵の見せどころで、
水槽に鏡をつけたり、光の演出に工夫することで幻想的な雰囲気を醸し
出している。派手な乗り物こそ使っていないが、立派にイリンクスと
なっている。
しかも、クラゲならジェットコースターは恐ろしくてとてもじゃないが
乗りたくないといった人でも、のぞいてみようかという気持ちになるだ
ろう。子どもと一緒に来たおじいちゃん、おばあちゃんがファンタジッ
クなクラゲを見ておもしろいと思えば、口コミ効果も期待できる。そこ
まで計算されたクラゲなのだ。
価格もディズニーに対してきっちりと差をつけた。ディズニーが大人
295香港ドル(だいたい4000円ぐらい)なのに対して、208香港ドル
(2800円ぐらい)。いわゆる七掛けである。家族3人で出かけたとし
て食事代やお土産代までをトータルに考えるなら、この差はかなり大き
い。お客様には訴求力のある価格設定となっているわけだ。
プロモーションにも力を入れた。テーマパークは話題作りが必要と考
え、妖怪着ぐるみイベント、クリスマス、旧正月など5種類の特別イベ
ントを実施している。だからといって特に変わったことをしているわけ
ではない。地道に、しかしやるべき課題をきちんとこなしている感じ
だ。
最後がプレース、つまり流通対策である。ここでもディズニーとの差別
化をていねいに行なった。たとえば旅行会社、それも中国本土の企業と
のパイプ作りである。ディズニーがそのブランド力を過信するあまり旅
行会社との関係作りに力を入れなかった対して、香港海洋公園はわざわ
ざ広州に事務所をおき、旅行会社との関係強化につとめている。その結
果、本土からの来客数にはっきりした差がついた。ディズニーが前年対
比12%減なのに対して海洋公園は12%増、極めて対照的な数字が出て
いる。
この香港海洋公園の事例から学べることは何だろうか。インターネット
時代になり、さまざまな新しいマーケティングの手法が生まれてはいる
が、何よりもまずはベーシックなセオリーをきちんと押さえることの重
要性だと思う。
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