『意識はいつ生まれるのか』マルチェッロ・マッスィミーニ/ジュリオ・トノーニ(亜紀書房) ブックレビューvol.6

2015.12.25

ライフ・ソーシャル

『意識はいつ生まれるのか』マルチェッロ・マッスィミーニ/ジュリオ・トノーニ(亜紀書房) ブックレビューvol.6

竹林 篤実
コミュニケーション研究所 代表

一辺の長さが3センチぐらいの花の写真を、縦5列と横5列、合計25枚並べた情景を想像してほしい。その中の1枚だけを花ではなく、ヘビの写真に差し替えたとする。この25枚の写真を見た人が、どんな反応を示すか想像できるだろうか。花とヘビは似ていないけれど、写真ではそれほど違いがあるわけではない。けれども、ほとんどの人が瞬時にヘビの写真を見分けるという。無意識のなせる技である。


800億vs200億の対決
煮立った熱湯に、知らずに手を入れた時、人はどんな反応を取るだろうか。文字通り「瞬時に」手を引く。然る後に「熱い!」と意識する。この順番に注意していただきたい。熱さが意識に上るのは、手を引いた後なのだ。なぜなら瞬間的に手を引くのは小脳の指令による行動であり、熱いと「意識」するのは大脳の神経ネットワークによるものだから。
人の脳内には、ニューロンが約1000億個あるといわれる。そのうちざっと800億個が小脳に収まっている。人間の脳の重さは約1500グラムだった。これに対して小脳の占める割合は120〜140グラム、重さは10分の1以下しかないのに、ニューロンの数で見れば8割になる。
これが意味するのは、小脳が独立したモジュールの集合体であること。一つのモジュールが処理する内容は決まっており、各モジュールが相互に影響をあたえることはない。
「小脳は、この特徴のおかげで、体の動きや他の機能を、信じられない速さと正確さで調整できるのだ。(中略)各モジュールの回路はやがて、試行錯誤を繰り返すことによって、新しい状況に適合し、修正信号をますます正確に出せるようになる(同書、P149)」
一方、記憶や思考、感情などからなる「意識」は、大脳内で複雑に絡み合って形成されたネットワークを経由することによって生まれる。つまり意識は、大脳にある。
その意識は一体何をしているのか。意識とは、どのようにして生まれるのか。そもそも意識とは何なのか。脳は科学に残された最後のパラダイスである。今のところ、生きている人の脳を直接観察することはもとより、何らかの刺激を与えたり、脳の内部を切り刻んだして研究することはできない。
けれども、最近の脳科学の進化はすさまじい。脳の機能について、人を人たらしめている(と一般的には理解されている)意識について、本書は極めて刺激的な示唆を与えてくれる。

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