世界では、ごく稀にGifted Childと呼ばれる子どもが生まれる。先天的にきわめて高い能力を持っている天才児のことである。そんな子どもが長じて、物理学(=ロジック)と経営学(=マネジメント)を学び、1週間100時間のハードワークをこなし、「人類を救う」強い意志を持っていたら、どうなるか。イーロン・マスクになる。
イーロン・マスクとは何者か
ひと言で表すなら「現代最高の起業家」である。イーロン・マスクが、これまでに何をしてきたのか。最初はゲームソフトの開発だ。10歳の時から独学でプログラミングをマスターし、12歳でソフトを作り、500ドルで販売した。
次は21歳の時。オンラインコンテンツ出版ソフトを開発し、これを扱うZip2社を立ち上げる。同社は4年後、コンパックに売却され、イーロン・マスクは3億700万ドルを手に入れる。
次は28歳の時。オンライン金融サービスと電子メールによる決済システムを開発し、X.com社の共同設立者となる。同社が1年後、他社と合併してできたのがPayPal社である。これを31歳の時にeBayに15億ドルで売却する。
つまりイーロン・マスクは31歳にして、既に15億ドル(今日のレートで1785億円)もの資産を手に入れた。ハッピー・リタイアメントして何もおかしくない。あるいはエンジェルとなって、将来有望なベンチャーに投資する人生に転じても、まったく不思議ではない。
ところがイーロン・マスクにとって、そんな選択肢はまったく眼中になかった。なぜなら、彼は本気で「人類を救わなければならない」と考えているからだ。
ソフトからハードへ
巨額の資産を手に入れたイーロン・マスクが、次に手がけたこと。それはモノづくりである。それもチンケなものじゃない。宇宙ロケットを作るため、33歳にしてスペースX社を創業する。
宇宙ロケットといえば、日本でも東大阪の中小企業が集まって開発した「まいど1号」が話題を集めたことがあった。けれども、スペースX社は、これとは決定的な違いがある。スケールである。
スペースX社が最終的にめざしているのは、火星への人類の移住だ。そんなアホな、話ではある。一民間企業が、もっといえば一個人が考えて(夢想するだけの人ならいるかもしれない)、実行する規模の話ではない。けれども、イーロン・マスクは本気である。
1基打ち上げるのに240億円かかるロケットを、何度も失敗しながら宇宙に飛ばそうとする。その結果、直近の目標だった、国際宇宙ステーションへの物資補給に成功。次の課題は有人宇宙飛行だ。
アメリカ政府やロシア政府、あるいは中国政府が取り組んでいる話ではない。一企業が宇宙に人を送り込もうとしているのである。ど真剣に本気の話である。
太陽エネルギーで地球を救う
イーロン・マスクが見ている世界は、宇宙だけではない。彼が救いたいのは、人類である。だから、当然、地上にも目を向ける。そこで起業したのがテスラ・モーターズ、電気自動車「ロードスター」を開発、販売する自動車メーカーである。
電気自動車といえば、日本のメーカーも開発している。有名なところでは日産のリーフ、三菱のi-MiEVだろう。けれども、ロードスターはこうしたクルマとは、完全に一線を画している。
走行距離は356km、0-100km/hの加速は4秒未満、最高速度は200km/hを超える。「電気自動車」から想像されるクルマではなく、スポーツカーだ。だから高価だった。けれども、爆発的に売れた。続いてセダンタイプ、SUVタイプを開発し、次には低価格版が登場する予定だ。
しかも、イーロン・マスクは電気自動車を走らせるためのインフラ整備にも取り組んでいる。全米に太陽光発電による充電スタンドを作り、テスラ・モーターズのクルマは無料で充電できるようにする。本気である。
次のページ見ている世界が違う
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
関連記事
2015.07.17
2009.10.31