日経MJ1月7日号の「流通トップ年頭所感」で、J・フロントリテイリングの奥田社長が「消費者の購買行動はモノからコトへと移っており、物販を主力とする小売業にはこれまで以上に厳しい年になりそうだ」と述べておられた。 果たしてそうだろうか。大変失礼ながら、違和感を覚えたので少し考えてみたい。
■高まる消費の選択制と残る消費
一つ前にアップした記事、”「縮み」のなかで如何に生きていくべきか”で筆者は今後生活者は厳しくなる経済状況と切迫した環境問題の中で、自ら消費の選択制を高め「縮む」べきであると述べた。モノからコトへ移行するのとは別の意味で、生活者が消費を絞り込むことは間違いないだろう。
しかし、モノでもコトでも、何らかの消費のアクションを起こすということは、費用が発生する。環境負荷も発生する。極端な話、人間が経済活動を完全に止めない限り環境負荷は発生し続けるのだ。しかし、それはあり得ない。故に、自身の経済負担も、環境負荷も軽減するために消費の選択性が高まるのである。
では、その高まる選択性の中で、消費は一気にコトだけに偏るのだろうか。
■消費のハレとケ
ハレとケ、非日常と日常。コト消費はハレに属するだろう。では、ハレの日においては、人は衣食住、振る舞い、言葉遣いなど全てをケの日とは異にする。本来ハレとはそういうものだ。つまり、そこではコトのみならず、よりハレの日を晴れやかに過ごすためにはモノも不可分であるはずなのだ。
TPOという言葉がある。Time, Place, Occasion,時と所、場合に適切に合わせるという意味の和製英語で随分と昔からいわれている言葉だ。が、残念ながらあまり適切でない方々も散見される。観劇や音楽鑑賞で訪れた劇場で「ちょっと、その格好はないんじゃないの?」という方などだ。アウトドアでも、何も道具に凝る必要はないけれど、「もう少し準備すれば苦労しないのに」という初心者もいる。コト消費が進んで様々なコトにチャレンジする人が増えることは良いことだ。だが、そのチャレンジするにもどのような準備が必要なのか、正しいTPOはどういうものなのかを誰かが教えてあげるべきではないのか。
様々なコト消費のシーン、そのシーンに合わせて適切なモノの提案をする。それこそが小売業の生きるすべではないだろうか。
様々な業種で「提案営業が重要」と言われるようになって久しい。小売業とて、同じだろう。
■可処分時間の過ごし方の提案まで踏み込め!
今日、可処分所得よりも人の自由になる「可処分時間」に注目する考え方が広まっている。
2007年~2009年までの団塊世代の大量定年で多くの可処分時間を持った生活者が登場する。一方、長時間労働を改める動きの反面、景気の後退は容赦なく生活者の自由な時間を奪っていく。
生活者にとっては限られた可処分時間をどう使うかが極めて重要になってくる。とすれば、その過ごし方の提案もビジネスチャンスだ。限られた可処分時間を有効に使うことはハレだ。ハレにはコトとモノが結びつく。その機会を捉えない手はない。しかし、流通各社もモノだけではなくコトも商材としているものの、まだまだコトとモノの結びつけが弱い気がする。
筆者は「縮む暮らし」を提言したが、縮むが故に、限られたハレはより重要になる。
売る側からの有効な提案であれば生活者も歓迎するに違いない。
その中で売る側も元気になり、買う側もハッピーになれるような関係が再構築されることを願う。
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2008.01.22
2008.02.18
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。