ここ数日ネットを騒がせているのが「吉野家・テラ豚丼」騒動。 この問題は生活者にまた一つ「食の不安」を投げかけたとも言えるが、一連の偽装問題とは意味合いが全く異なる。また、それ故に根本的な解決策が見えずらく、吉野家一社の問題に留まらない新たな不安を感じさせるのである。
テラ豚丼騒動。「メガ牛丼を上回る」として、吉野家の制服を着た従業員と覚しき人物が店舗の厨房でボタボタと豚丼の具をこぼしながら丼に山盛りにしていく様が動画共有サイトに投稿された。
投稿者の動画そのものは既に削除されているが、閲覧者によって再投稿された動画がいくつも様々な動画サイトで発見できる。
そのうち一つを見た。「おいしそうだ・商品化すべきだ・何が問題なのかわからない」などとする、炎上を狙ったと思われる書き込みも掲示板では散見されるが、筆者としては、正直、気分が悪くなった。
今しも世間は食の不安に駆られている中、各掲示板の書き込みも「不衛生だ」「不謹慎だ」との意見が大勢を占めている。
吉野家は12月3日に「勤務中の行き過ぎた悪ふざけ行為」とお詫びのコメントを発表。「当該店舗・従業員を特定し、確認が取れ次第厳正に処分する。会社としても、再度従業員教育を徹底する」としている。
冒頭にこの問題は同じ「食の不安」を呈するものであっても、一連の偽装とは問題を異にすると記した。
食品偽装は、発覚当初は関与を否定するも、いずれも最終的にはトップをはじめとした組織ぐるみの仕業であることが露呈した。
そしてそこには社会通念に反するだけでなく、食品衛生法にも触れる脱法行為であることを理解した上で犯行に及ぶという、明確な「悪意」が存在する。
また、発覚の原因は組織内で横行する不正を看過できない従業員による内部告発である。
一方、テラ豚丼問題。この動画の従業員はアルバイトであろうとネットでは噂されている。
吉野家が「悪ふざけ行為」とコメントしているように、悪意は感じられない。
また、発覚も内部告発などではなく、コトの重大性を理解していない本人による投稿である。「こんなコトをしたらウケるだろう」という、考えなしの愉快犯による仕業なのだ。
だからといって行為が是認されるものではない。いや、一層問題を根深くさせている。
偽装問題であれば、関わった組織の膿を一掃することもできる。
販売成果が回復するかどうかという世間の審判が結審したわけではないが、「白い恋人」は復活の道を歩み始めている。古くは雪印などもそうだ。
しかし、アルバイトの愉快犯は厄介である。
今日、日本の労働市場はアルバイトに依存している部分が非常に大きい。
この吉野家の店舗もおそらくそうであろうが、アルバイトだけに店舗運営を任せている実態も数多い。
それ故、教育をし、マニュアルを整備してきたのだが、それらが効果を上げていなかったことが発覚した結果となってしまったのだ。
飲食店だけではない。コンビニエンスストアなども、今日では店頭加工食品を多く扱っており、アルバイト依存度が高いのも同じだ。
それらを全て同列に断じることはできないが、今回の問題が投げかける不安は、ともすれば大きな広がりとなりかねない。
吉野家はおそらく、一罰百戒の意味を込めて、問題の従業員を捜し出し、コメント通りの厳しい処分をするだろう。しかし、それで全従業員の意識改革ができるのかが問題だ。
後続を断ち切ることができるのかである。
また、ことは吉野家だけではなく、他企業にも問題を投げかけている。
「テラ豚丼騒動」。ネット上では今日もお祭り騒ぎが続くような気がするが、この事件は企業にとっての従業員教育や、店舗運営のあり方という、非常に根深い問題を露呈させたと言えるだろう。
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2007.12.19
2008.01.01
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。