桑田佳祐さんとサザンオールスターズを知ることは、ビジネスでの成功法則を知ることだ。努力、工夫、創意……そのすべてが詰まっている。
曲作りだけではなく、レコーディングもロックのラフなイメージと異なる。たとえば1990年にTBSで放送された「すばらしき仲間II」では名曲「真夏の果実」のボーカルを1秒単位で録り直す姿が、幼い私に強烈なインパクトを与えた。本人以外、誰も違いがわからないであろう微差を、納得するまで解消しようとする氏。それは、アーティストというよりも、町工場の職人そのものだった。
しかも、それはレコーディング後まで続く。飲みに行ったバーで自分の曲が流れると、「反省ばかりしてしまう」。どこまでも、職人気質なのだった。
<世の中には、ギターのコードを♪ジャーンと鳴らして、一筆書きのように等身大の自分を描き、それで自己表現を見事にしてしまう天才もいる。僕には絶対に出来ないことだ>(「やっぱり、ただの歌詞じゃねえか、こんなもん」新潮社より)
・成功するアーティストとビジネスマンの共通点
氏を見ていると、一般的なアーティスト像と異なる。学習し、試行錯誤し、妥協せず、なにより勤勉だ。<よく働きますよ。半端じゃないですよ。体力も凄い。集中力も凄い。頭も体も、働くことを嫌がらないしね。やっぱり、人の倍働いているから、ああいうふうになれるんじゃないかなっていうのが、まずありますね>(「クワタとユーミン」サンマーク出版より友人のインタビュー引用)。
アーティストはどちらかといえば、我が道をゆくイメージがある。しかし、それにたいして、桑田佳祐さんはつねに判断の基準はファンであるとしてきた。しかも、ロックのひとには珍しく、売れたいという気持ちを隠さない。「もっと売れるもの作んなきゃ、だめだ」「売れなきゃだめだ」(同引用)。
「ヒット曲を出します! もういちど『ベストテン』に入ります! 入らせてください!」(「ロックの子」講談社より)。
ビジネス用語で、「マーケットイン」と「プロダクトアウト」がある。前者は、市場でお客のニーズに合致した商品をつくること。そして、後者はむしろ新商品を市場に提案すること。前者はお客優先で、後者は作り手優先だ。この意味で、桑田佳祐さんはずっと前者であり続けた。過剰なサービス精神と、商品のために努力を惜しまない姿勢、そしてヒットを求める執念が、現在の氏を創りあげた。
かつて桑田佳祐さんは、歌手でなければ、自分はそれなりにサラリーマンとして成功していたのではないか、と語ったことがある。なるほど、たしかにその特性は備えているようだ。そしてアーティストでも、ビジネスマンでも、演じる力が必要だ。本心や気持ちとは別に、舞台や職場で演じる能力。桑田佳祐さんは、この意味でもプロフェッショナルであり続けた。
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2012.12.12
2012.12.21
未来調達研究所株式会社 取締役
大阪大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務に従事。未来調達研究所株式会社取締役。コスト削減のコンサルタント。『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)など著書22作。