思考を3軸でとらえたのが「思考球域〈Thought Sphere〉」である。「大きな問い」を発し、「大きな答え」をつかむためには、「キレ」と「コク」の領域を大きく往復することが欠かせない。
【キレの思考】
・「具象×論理×客観」領域を基地とする思考活動
・「シャープ&ソリッド」な思考
(sharp=鋭い・明快な、solid=固形の・硬い・実線の)
・具象性に根付きながら明示するように考える
・tangible(触れられる)、explicit(系統立てられた)、
・不確実性や曖昧さを排除する
・実践や実利を求める
・客観的事実を積み上げていく
・物事を細かに分解し調べて理解しようとする(還元論的)
・分析的、収束的
・直線的に、連続的に
・「理知の人」、事象を測量し証明する
・形態〈form〉寄り
・その思考をする者の能力に関わる
【コクの思考】
・「抽象×イメージ×S」領域を基地とする思考活動
・「リッチ&ファジィ」な思考
(rich=豊かな・濃厚な・味わいのある、fuzzy=曖昧な・不明瞭な)
・抽象的に、輪郭を描かず、示唆化するように考える
・intangible(触れられない)、tacit(暗黙の)
・不確実性や曖昧さを受け入れる
・観念的でよしとする
・主観的解釈で仮説を立てる
・物事をまるごと包み込んでとらえようとする(全体論的)
・綜合的、拡張的
・非直線的に、非連続的に
・「智慧の人」、意味・価値を物語る
・本質〈essence〉寄り
・その思考をする者の存在に関わる
◆鋭く明瞭に考え×豊かに曖昧さをもって考えよ
私たちは誰しも、運動量に差こそあれ、ときに「キレ」でもって科学者のように考え、ときに「コク」をもって芸術家のように考える。
たとえば俳句を詠もうとするとき、詠み人はまず目の前にしている自然を細々と観察する。雲の動きがどうなっているか、風がどう吹いているか。何の植物があり、どんな色の花を咲かせているか。それは言ってみれば、自然を個別に具象的に観ていき、句の材料になるものが何かないかを鋭敏に探している姿勢である。そこでは「キレの思考」をしているわけだ。
と、次の刹那に詠み人は、いまここにある自然の本質的な存在要素は何であるか、自分は何をモチーフとして描くか、といったものを抽出する。それは「コクの思考」である。そこは曖昧さという霧のなかであり、直観というサーチライトで“何か”をつかみにいく作業となる。……そして彼は、蛙(カエル)や蝉(セミ)といったモチーフに出合う。
すると今度は瞬時に頭が切り替わって、「五・七・五」という言葉の成形に入る。どんな語彙、どんな構成、どんな韻が効果的であるか、客観的、論理的に考える。ここは、自身が感受したものをいかに「キレ」よく、文字というナイフを使って表現できるか、の思考になる。
しかし、次に彼はそこを超え、あえて「キレ」を隠そうとする。静けさを表すのに、あからさまに「静かだ」と言ってしまわない。あるいは、静けさを、音の賑やかさから逆説的に伝えようとする。明瞭ではなく、あえて不明瞭に。鮮明に切り落とすのではなく、じんわりとにじませるように。なぜなら彼は、「コクの思考」の住人だからだ。ご存じ、俳人・松尾芭蕉の名句───
次のページ◆論理・客観に留まるほど没個性に陥る
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
関連記事
2009.10.27
2008.09.26
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。