「職選び」を乗り物にたとえる

画像: halfrain

2012.08.24

仕事術

「職選び」を乗り物にたとえる

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

乗り物の好みは人さまざまだ。安定した運航で遠くまで連れていってくれる大型船がいいという人もいれば、目の前の岩山を、オフロードバイクでケガを承知で駆け上がりたいと衝動が走る人もいる。「職選び」もまた同じである。

 また、町の中小企業はさしずめ、「小さな帆船」といった感じだろうか。その日その日の風向きを常に気にしながら、帆の位置を変えてゆっくり進む。出せるスピードは限られているし、遠くへも行くにも難がある。景気といった波の影響をもろに受けるからだ。
 しかし、自分たちしか知らない穴場の漁場があって、そこで高級魚の一本釣りの醍醐味を味わうこともできる。帆船はエンジンで走る高速の乗り物では味わえない独特の世界を持っている。

 そして、最後に自営業・フリーランス。これは「自転車」か「徒歩」だ。漕ぐこと、歩くことをやめたらそこでストップする。動く早さ、動く距離はすべて自分の意志と体力次第だ。
 もちろん行き先はすべて自分で決める。道草は自由。途中で道を変えるのも自由。ただし、雨が降り、風が吹けば自分でよける道具や工夫が必要になる。しかし、移りゆく景色、風の匂い、季節の音を楽しみながら進むことができる。

 乗り物の好みは人さまざまだ。安定した運航で遠くまで連れていってくれる大型船がいいという人もいれば、目の前の岩山を、オフロードバイクでケガを承知で駆け上がりたいと衝動が走る人もいる。
 また、乗り物など使わず自分の脚で山に登って、道端の草花に目をやり、景色のいい場所を適当に見つけて、手作り弁当を広げるほうがいいと思う人もいる。これらは志向性、価値観の差であって、どれが正解か不正解かという問題ではない。

 職選びもこれに共通したところがある。大企業で海外を股に掛けるもよし、ベンチャー企業で一攫千金を狙うもよし、はたまた個人事業で趣味を仕事にするもよし。スピードの中で戦う仕事もよし、のんびりとした仕事もよし、人が寄り付かない仕事もよし。
 要は、自分の内なる声に正直に従い、それにマッチした職やワークスタイルを選び、生計が立てられれば、それは「幸せのキャリア」である。経済的に「成功のキャリア」ではなく、自分の性分に合った乗りものを選ぶという「幸せのキャリア」という観点も長いキャリア人生においては大事である。
 ちなみに、「成功のキャリア」にせよ「幸せのキャリア」にせよ、そこを狙い、維持していくためにはリスクを負って努力することが必要だ。そういうことがわずらわしいと思う人は、現状に不満がありつつも、内なる声に耳をふさぎ、現職でとりあえず安定的に雇用されるように我慢をするという「可もなく不可もなくキャリア」という道を選ぶこともできる(現実社会ではこれが多数派ではないか)。

 ……さて冒頭のSさん。彼は、結局、受け身で乗せられる「大型船」ではなく、ハイリスクであろうと自分でマシンを動かせる「オートバイ」が自分の働く性分に合っていたのだ。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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