私たちは、周囲の状況をすべて、「ありのまま」に見ているわけではありません。というのも、ありのままを情報として取り込むには、情報量が多すぎて脳の処理能力を超えてしまうからです。
「予想外」
の存在になっているからです。
すなわち、自動車ドライバーにとって予期しないバイクの登場は見落としやすいのですね。ですから、バイクの数が増加すれば、自動車ドライバーにとって彼らの登場は予想外のものではなくなり、事故が減少していく可能性が考えられます。
近年、日本では趣味や通勤で自転車に乗る人が増加しており、その結果として、自動車と自転車の事故が増加傾向にありました。しかし、最近の統計を見ると減少する傾向にあります。
自転車に乗っている人が、自動車事故に遇わないように危険を避ける方法を学んだということもあるでしょうが、むしろ、自動車ドライバーにとっては、自転車が道路上のありふれた存在となったため、「予期できる存在」になったことが大きいのではないでしょうか?
実際、カリフォルニア各都市と、ヨーロッパ数カ国を対象に、歩行者および自転車が遭遇する事故の割合を調べた調査によれば、歩行者と自転車が事故に遭う件数は、
・自転車・歩行による移動が最も多い都市で最も少なく
・自転車・歩行による移動が少ない都市で最も多かった
であり、直感的な思い込み(自転車・歩行者が多いほど、事故も多いだろう)と反した結果になっているのです。
さて、これまで述べてきた認知限界=注意の錯覚は、裏返せば、「集中力」を発揮しているということであり、それ自体がネガティブなものではありません。
そして、日常生活のほとんどの「見落とし」は、トラブルになることもなく、取るに足らないものです。
しかし、自動車・自転車等の運転や、危険な工具類を使用している時など、何らかのトラブルが大事故につながりねない状況では、私たちは誰もが、
「注意の錯覚」
を持っているのだ、という自覚が必要となるでしょう。
*以上の内容は、『錯覚の科学』を参考にしました。
『錯覚の科学』
(クリストファー・チャブリス、ダニエル・シモンズ著、木村博江訳、文芸春秋)
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
関連記事
2012.07.24
2012.07.26
有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー
これからは、顧客心理の的確な分析・解釈がビジネス成功の鍵を握る。 こう考えて、心理学とマーケティングの融合を目指す「マインドリーディング」を提唱しています。