世界のインターネット利用者数は急増しており、情報の収集、発信メディアとしてなくてはならない存在となったが、そんな自由なインターネットの世界もさまざまな検閲がかかるようになってきた。
ACTAで懸念されることのひとつは「著作権」という名の下にインターネットのプロバイダーは自社が管理しているサイトが著作権を侵害していないかを常時監視するようになるということだ。そして問題がありそうならプロバイダーはすぐにサイトを閉鎖することができる。ACTAは著作権侵害を告発する原告側が、相手に違法性があるかどうかを司法審査にかけずに告発することができるという著作権所有者に有利な法律だからだ。つまり自由にアクセスできるインターネットが大きく変わることがあり得る。
10年ほど前、「IT革命」ということが盛んに言われた。それはコンピュータと電話回線がつながることで革命的なことが実現されるという予測と、それによって経済が活性化され景気が浮揚することへの期待からだった。しかし実際、ITは単なる生産性向上のツールであり、日本経済の起動力となることもなかった。
革命的な力を発揮したのはインターネットだった。インターネットを使って国民がデモを動員し、チュニジアでは23年続いた独裁政権が倒されたのだ。インターネットは民主化活動に大きな力を発揮した。このような状況になれば、非民主主義国家の政府がそれを規制しようという動きにでてくるのも当然であろう。
だが、本来民主主義であるはずの日本やアメリカ政府までも、このインターネットの力を抑えようとし始めているのである。それがACTAやTPPといった国際条約の推進なのだろう。参加国政府は、政府や大企業が国民に知られたくないことを、多くの国民に効率よく知らせることができる仕組みであるインターネットをコントロールするために「知的財産権」という言葉を使い、国際的な規律を作ろうとしているのである。
そして究極は、情報やナレッジを人々が自由に共有すること、それ自体が禁じられるようになるかもしれない。すでにアメリカは、ジョージ・オーウェルの描いた『1984年』にでてくる大国にきわめて酷似した国になっている。そのアメリカの属国である日本も、そのあとを追うようにいま、政府民主党は「秘密保全法案」を作ろうとしている。これは防衛、外交、公共の安全・秩序の維持の3分野を対象に「秘密」を決めて公務員などが漏洩した場合に刑罰を与えるというものである。この法律で、政府が国民に秘密にしたいことは、TPPでもACTAでも知らせる必要がなくなるというわけだ。
また処罰対象は公務員だけでなく、第三者が「不正な手段で」入手した情報を公開しても同様である。例えばWikileaksのように「不正」な方法で国民の不利益になる政府が秘密にしたい情報をインターネットで公開すれば処罰の対象となるのだ。われわれはこの政府の動きを止める行動をとるべきではないだろうか。インターネットの利益を享受し続けるためにも。
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2008.09.26
2010.04.20
トッテン ビル
株式会社アシスト 代表取締役会長
1969年、米国の大手ソフトウェア会社の一社員として市場調査のために初来日し、1972年、パッケージ・ソフトウェア販売会社アシストを設立、代表取締役に就任。2006年、日本に帰化し日本国籍取得。2012年、代表取締役会長に就任。