時代が喪失しているものの中で1つ大事なもの挙げるとすれば、それは「健(すこ)やかさ」だ。「健やかさ」などという普遍的だが退屈な価値で注目・支持を集めるのはラクな仕事ではないが、爛熟から凋落のコースを変えるには不可欠ものだ。
例えば、宮崎駿監督のアニメーション映画はひとつの「健やかさ」の作品表現かもしれない。グリーンツーリズムや日本の“おもてなし”も旅行業界での「健やかさ」価値の体現かもしれない。「無印良品」も、商品づくりの思想のなかに「健やかさ」という一本の軸が通っているように思える。“ロハス”や“スローライフ”も「健やかさ」と通底している。また、ビジネス書としてベストセラーになった『日本でいちばん大切にしたい会社』(坂本光司著)の中には、それこそ「健やかさ」を保った企業の話がたくさん出てくる。
世の中の商品・サービス・芸術が、刺激性・中毒性を増さなければ振り向かれない潮流にあって、「健やかさ」などという普遍的だが退屈な価値で支持を集めるのはラクな仕事ではない。
しかし、「健やかさ」を蘇生する作業を怠れば、歴史上、多くの爛熟しきった社会がたどった道と同じ道を私たちも進んでいくことになりかねない。
私は企業の研修現場で仕事観の醸成教育をやる身であるが、プログラム開発のテーマに据えているのは、次のようなことである。
・「成功のキャリア」から「健やかなキャリア」へ
・「勝ち組/負け組の生き方」から「自分らしくを開く生き方」へ。
・「得点の競争で疲れる職場」から「知恵の競創が面白い職場」へ。
(“競創”とは創造性を競うこと)
1人1人の仕事・働く意識が健やかになる。1つ1つの職場が健やかになる。私自身、そのための教育はとても大事な仕事であると自覚している。
再び名曲『ホテル・カリフォルニア』に戻って。
ドン・ヘンリーは最後の部分でこう歌う───
“We are all just prisoners here, of our own device.”
俺たちはみんなここの囚人さ、自らが仕掛けた罠にかかって。
“You can check out any time you like, but you can never leave.”
チェックアウトしようと思えばいつでもできるのに、決してここを出ていけないのさ。
「ホテル・カリフォルニア」という「喪失の園」から抜け出られないのは歌の世界だが、現実世界の私たちは、しっかりと「健やかさ」を取り戻し、自らの罠にかからないようにしたい。
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2009.10.27
2008.09.26
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。